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[海堂尊]螺鈿迷宮 上・下


螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

医療界を震撼させたバチスタ・スキャンダルから1年半。東城大学の劣等医学生・天馬大吉はある日、幼なじみの記者・別宮葉子から奇妙な依頼を受けた。「碧翠院桜宮病院に潜入してほしい」。この病院は、終末医療の先端施設として注目を集めていた。だが、経営者一族には黒い噂が絶えなかったのだ。やがて、看護ボランティアとして潜入した天馬の前で、患者が次々と不自然な死を遂げた!彼らは本当に病死か、それとも…。


螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

医学生・天馬大吉が潜入した不審死の続く桜宮病院に、奇妙な皮膚科の医者がやって来た。その名も白鳥。彼こそ、“氷姫”こと姫宮と共に病院の闇を暴くべく厚生労働省から送り込まれた“刺客”だった。だが、院長の桜宮巌雄とその双子の娘姉妹は、白鳥さえ予測のつかない罠を仕掛けていた…。終末医療の先端施設に隠された光と影。果たして、天馬と白鳥がそこで見たものとは?現役医師が描く、傑作医療ミステリー。

いやはや、またまた面白かった。この作者は期待を裏切らない。落ちこぼれ大学生、天馬大吉が新聞社に勤める幼馴染の別宮葉子に頼まれて桜宮病院に潜入し、病院内で起こる不振な死など闇を調べるところから始まる。メディカル・アソシエイツの代表、結城。桜宮病院を経営する桜宮一族。厚生省役人の白鳥、姫宮。濃いキャラクターが暴れまくる。東城大学病院を生のための治療、終末期医療の桜宮病院を死への治療っていう分け方もなるほど。社会保障費の抑制策により終末期医療やAi(死体に対する画像診断)に予算がつかない現実。お役所の既得権益によるものなど。どうして正しい論理が歪んだ論理に負けてしまうのか。現代医療の世界を垣間見せる。看護師の不足を補うために患者を病院の社員やボランティアにする手法は意外とあっても面白いかと思う。ロジカルモンスター、白鳥でさえ「負けた」と言わしめた院長・桜宮巌雄が相当やり手で、悪役だが実は正義なんだと最後に理解できる。

「多分、患者さんに業務の一部を担当してもらっていることを指しているのでしょう。体調に応じて院内の業務を分担してもらい、労働対価は院内で流通するポイントで支払い、院内経費と相殺しています」「終末期患者のQOL(生活の質)は劇的に向上して、平均存命期間も延びました。」「看護業務は、医療事務と日常生活のの維持業務の混合物です。生活維持部分は医療スタッフが行う必然性はありません」この病院には、徹底的に無駄を削ぎ落とした清潔さが漂っている。

「闇に光を当てれば、隣に闇ができるだけ。光には闇が寄り添う。これは普遍の真実。光が強ければ闇も深い。これまた永遠の真理」

「碧翠院桜宮病院の骨格は美しい。終末期医療の理想です。経営的には成立しにくいけど。その基本姿勢は、法体系なんてクソ食らえ、スキあらば国からあぶく銭をむしり取り、患者によりよい医療を還元しようというもの。その徹底した悪漢ぶりは実に見事。姫宮から報告受ける度、僕は桜宮病院の論理的な合理性にうっとりしてしまった。患者にとってよい環境を作るためなら国さえも騙す。いかに効率よく国から金をかっぱぐかという観点を大黒柱に捉え、システム構築する。割り切った姿勢からは、現代医療の枠組みの中で患者主体の医療を真摯に行うと、反体制化せざるを得ないんだ、という叫びさえ聞こえてきた」


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