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Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[伊坂幸太郎] チルドレン

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々―。何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。


巻末解説にあるように「短編小説のふりをした長編小説」。なるほどこんな短編集もあるのか。面白い!それと登場人物の会話が醸し出す独特の世界感がいい。好きというより憧れなのかも知れない。Yasu自身生まれてこの方自分が原因か周囲が原因かは分からないが、会話といえばバカ話がほとんどなので伊坂作品にあるような詩的でスマートな会話には縁が無いので(笑)。

「バンク」銀行強盗に巻き込まれる大学生の鴨居、陣内、全盲の永瀬。「チルドレン」十数年後、家裁調査官に就いて少年犯罪を担当している陣内、陣内の後輩・武藤の話。「レトリーバー」レンタルビデオ店の店員に振られ、仙台の駅前での出来事。「チルドレン?」家事事件担当となった武藤と、少年事件担当の陣内、それぞれ扱っていた事件が意外な展開で交差していく。「イン」大学生時代の陣内、永瀬、優子。百貨店の屋上での物語。全編に渡ってKYで危なっかしい雰囲気だが不器用でも正義感が強い陣内の憎めないキャラがとってもいい感じ。こんな友達いたら面白いだろうな。

「目のことをいろいろ言われるのは嫌じゃないか?」鴨居は、彼に顔を寄せて、訊ねた。「たいてい人ってのはランク付けをしたがるだろう。目に見えない奴はそれだけで自分よりも上位だとか、下だとか」彼は笑みを浮かべた。「嫌なときもあるしそうじゃない時もあるよ。ただ、慣れたかな。目が見えないことにも、下らないことでランク付けされることにも、慣れたよ」

「少年と向かい合うのに、心理学も社会学もないっつうの。あいつらは統計じゃないし、数学でも化学式でもない。だろ? それに、誰だって自分だけはオリジナルな人間だと思ってるんだよ。誰かに似ているなんて言われるのはまっぴらなんだ。俺は、ジョン・レノンに似ていると言われるのだって我慢できないね。それなのに調査官が『おお、こいつはこういう家庭環境のパターンね』『これは以前扱った非行と同じケースだね』なんて型にはめたら、愉快なわけがない。だろ? バレンタインデーで、周りの男と同じチョコをもらうのと同じだよ。好きな子からもらって、喜んで開けてみたら、みんながもらっている義理チョコと一緒だった、というのと、同じくらいの悲劇だよ。悲劇は不要だ。調査官は、担当する少年が、『他の誰にも似ていない、世界で一人きりの奴』だと思って、向き合わないと駄目なんだよ」

この親父は社長として成功しているだけに、自分の行き方が正しいと思い込んでいるに違いない。一度成功した戦術を繰り返せば、サッカーでも野球でも相手チームに読まれてしまうのがオチなのに、人生には同じ作戦が何度も通用すると甘く見ている。

「そうかあ」答えながら僕は、反射的に陣内さんのことを考えた。父親を軽蔑していた陣内さんは、果たしてどうやってけりをつけたのだろうな、と知りたくなった。

「そう。トルーマン・カポーティ。彼の小説にさ、こんなことが書いてある。『あらゆるものごとのなかで一番悲しいのは、個人のことなどおかまいなしに世界が動いていることだ。もし誰かが恋人と別れたら、世界は彼のために動くのをやめるべきだ』ってさ」

その頃の陣内君は、早くも失恋のショックから立ち直っていて、何を思い立ったのか、例のレンタルビデオ店に通い詰めては、テープを巻き戻さないで返却をするという地味な復習に忙しかった。

「半年前さ、あの人は逃げるようにして、いなくなったけど、でもさ、ずっと考えていたんだよね。あの人がどうやったら復活するのかなあ、って」「復活?」「そう、復活」それは、とても良い響きの言葉に感じた。力強く、希望に溢れているし、可愛らしさすら含まれている気がした。

黄金時代が現代であったためしはない。

「人っていうのはさ、ショックから立ち直ろうとする時には、自分の得意なやり方に頼るんじゃないかな」「どういうこと?」「落ち込んだ陸上選手はやっぱり走るだろうし、歌手は歌うんだよ。みんな、そうやって立ち直ろうとするんじゃないかな」「陣内くんの場合は?」「ギターを弾くか、馬鹿な話をしつづけるかのどちらかだ」

「何を犬と張り合ってるの?」と嘲笑してくるが、まったくもって認識が甘い。ライバルが人間であれば、わたしはもっと鷹揚に構えている。

「俺が恋の告白をするから、一緒に来ないか」とまるでスポーツ選手が、自分の試合に友人を招待するかのようだった。

「そもそも、大人が格好良ければ、こどもはぐれねえんだよ」

「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きてる意味がないだろ」