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[東野圭吾] さまよう刃


さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える―。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。


加害者救済色の濃い被害者置いてけぼり少年法の問題、現代で仇討ちが許されるのか、被害者家族の感情を無視するマスコミ、重いテーマを取り上げた社会派小説。ストーリー自体は犯人を追う被害者の父親と警察とのスリル満点の攻防が読み手をどんどん引き込んでいく。作者が結末をどう描くのか想像しながら読んだがいい終わり方であったと思う。重いテーマをこうも一級のエンターテーメント小説として世に問いかける作者の技量と重いテーマに向き合う姿勢には敬服する。映画化もされるようだ。

少年法は被害者のためにでも、犯罪防止のためにあるわけでもない。少年は過ちを犯すという前提のもと、そんな彼等を救済するために存在するのだ。そこには被害者の悲しみや悔しさは反映されておらず、実状を無視した、絵空事の道徳観だけがある。

「警察というのは何だろうな」久塚が口を開いた。「正義の味方か。違うな。法律を犯した人間を捕まえているだけだ。警察は市民を守っているわけじゃない。警察が守ろうとするのは法律のほうだ。法律が傷つけられるのを防ぐために、必死になってかけずりまわっている。でもその法律は絶対に正しいものなのか。絶対に正しいものなら、なぜ頻繁に改正が行われる?法律は完璧じゃない。その完璧でないものを守るためなら、警察は何をしてもいいのか。人間の心を踏みにじってもいいのか」