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Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[サイトウ・ヒロアキ] ゲームニクスとは何か


ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則 (幻冬舎新書)

ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則 (幻冬舎新書)

国内販売数が、携帯電話人口の約5分の1に届いたニンテンドーDS。ブレイクするiPod、グーグル、ミクシィ。これら一人勝ち商品の共通点が「ゲームニクス理論」だ。日本のゲームは、スペースインベーダーやドラクエに始まりWiiに至るまで、初心者もマニアも共に熱中させることのできる世界でも稀有な存在。ゲーム制作のノウハウを体系化したのがこの理論。ポイントは「使いやすく」「使い込める」ものづくり。あらゆる分野に応用できる日本発の知恵だ。


2000年前後からスタートしたとされるソニーvs任天堂の次世代ゲーム戦争はひとまず任天堂の圧勝に終わった感じです。当時ソニーは経営資源をスーパーコンピューター並みの演算・処理速度を誇るマイクロチップ「CELL」の開発に投じました。一方の任天堂は徹底的に使いやすさを追求し、上下に2画面を配置したDSを世に送り出し、ユーザーの裾野を圧倒的に広げました。より小さく、より速く、より大容量などのスペックを追求してきた家電メーカーのソニーと、何よりも面白さが重要、ハードよりもソフトが重要であることを知っていた玩具メーカーの任天堂の違いだと指摘しています。まったくその通りですね。両者が追い求めた方向性が好対照だから面白いです。より薄い液晶TV、より大容量のDVDなどの開発に他の家電メーカーと鎬を削っていたソニーは必然的に「CELL」の開発に走ったんでしょうけど。任天堂を土俵際まで追い詰めたソニーが土壇場で見事にうっちゃられたような感じでしょうか。その手でくるかぁ〜と。

ゲームニクス理論四原則とは、

  • 第一原則 直感的なユーザー・インターフェース(=使いやすさの追求)
  • 第二原則 マニュアルなしでルールを理解してもらう(=何をすればいいのか迷わない仕組み)
  • 第三原則 はまる演出と段階的な学習効果(=熱中させる工夫)
  • 第四原則 ゲームの外部化(=現実とリンクさせてリアルに感じさせる)

この理論はゲーム業界だけでなく各分野にも当てはまると指摘しています。もちろんシステム開発も同様でしょう。業務用システム開発を生業としている私たちも見習う点が多いと思います。
単純化すればシステムというのは2の動作に分けられると言えます。インプットとアウトプットです。切符の券売機もお金を入れて目的地を選ぶというインプットに対し、その切符を発券するというアウトプット。ATMも同様です。少ないインプットでより多くのアウトプットを出すシステムは良いシステムと言えます。ユーザーが対峙するのはインプット画面ですから、いかにストレスなくインプットさせられるか、が大事です。画面レイアウト、ボタン配置、デフォルト設定、エラー処理、などなど。僕はデフォルト設定が結構重要じゃないかと思うのです。筆者もATMの最初の画面ですべてのボタンが同じ大きさ、色で配置されているのはおかしいと指摘しています。お金を引き出す目的の人が大多数なのだから、「引き出す」ボタンはもっと大きく表示されるべきだと。強弱、メリハリやをつけた導線(動線)設計も大事ですね。

業務用システムはユーザーの要求が開発時点で100%出揃っていない場合が多いので、途中から機能の追加追加でだんだん使い勝手の悪いシステムになってしまいがちです。コンシューマー向けの商品とは違う難しさがあります。機能系とは違ってユーザーインターフェース(UI)の骨格をしっかり構築しておく必要があるのでしょうか。この本でも指摘されていますが、「何でもできる」というのは良いようで実は使い勝手からすると??なのかも知れません。何でもできるエンジンは姿を隠して、ユーザーにとって使い勝手のよいUIを何本か用意してあげるのがいいのでしょう。何でもできるエンジンをユーザーに意識させるのはマニアは喜ぶかも知れませんが、ほとんどのユーザーには敬遠されるでしょう。「制限」があることによって「工夫」する文化が育ち、高度なUIが育つ。と筆者も言っています。まったく同感です。

業務用システムというのは使う人をある程度想定しているのでUIに関して言えば遅れているのでしょう。ただ今後世代交代の時期にきたときに、UIも重要になってくるんだと思います。ひと昔前よりひとりの人が使うソフトウェアの数は多くなっているし、多能工化を求められているので尚更でしょう。業務用システムのUIもExcelやWordなどのような世界標準で使われているソフトのボタン配置やレイアウトに近いものにするのも、ユーザーに対するやさしさになると思います。エンジニアとしてはセンスを主張したオリジナリティーを求めたくなるかも知れませんが、エンジニアの満足とユーザーの満足はほとんどの場合は一致しませんから。


VE講習会で筆者の講演資料に以下のような記事が載っていました。

「技術革新が消費者ニーズを追い越してしまった。結局のところ、勝ち組は、最先端の技術を使わず、消費者のニーズをソフトや使いやすさで汲み取った米アップルコンピュータ任天堂だけだった」(先の松下電器幹部)。(日経ビジネス

任天堂ならどんな車を造るか、考えてみろ」。トヨタ自動車の渡辺捷昭社長は、社内の開発チームにこんな指示を与えているという。任天堂の独創性は、世界のトップ企業にとってもお手本になっている。
任天堂:DSとWii大ヒットで復活 消費者裏切る独創性(毎日jp)

大企業のTOPにここまで言わせるくらい、DS、Wiiと続く任天堂の製品はインパクトがあったんでしょうね。


以下は、本の一部を抜粋

といっても、人を夢中にさせるゲーム作りの要素として、「ストレス」は重要です。プレイヤーにある種のストレスを与えながらも、それを乗り越えた先に快感が待っていると感じてもらい、それを乗り越えたいと思わせるという「ストレスと快感のバランス」が、ゲームを作るうえで一番大切なポイントとなっているからです。

このように過去の出来事が現在の行動に影響を与えることを、経済学では「経路依存性」といいます。一度慣れ親しんだ操作系は、ユーザーが新しく商品を選択する上でも、大きな影響を与えるのです。

このようにPS3を紹介しようとすると「あれもできます」「これもできます」といったように、「〜ができる」という文章が羅列することになります。本体に搭載されている機能の面では、PS3はWiiを遥かに凌いでいるのです。
しかし、こうした便利な機能の多くがメニューの奥深くに収納されているため、ユーザーは自分でこれらのモードや機能を見つけなくてはなりません。新機能を自分でどんどん発見し、楽しみたいユーザーにとっては極上のマシンではありますが、一般ユーザーにとっては、そうした機能があることすら気付かない製品になっています。
これではゲームニクス的には落第点です。機能を使いこなすにはまずマニュアルを読んで、どのような機能があるか勉強するところから始めなければならないからです。高機能ゆえに一般ユーザーには縁のない製品になっているのです。

陰山氏は「ゲーム知育ソフト大ヒット商品20」という記事の中で、こんなことを話しています。「良いゲームと、良い授業、そして良い百ます計算のやらせ方には、どれもリズムとテンポが需要だ」(略)「リズムとテンポ」は、ゲームでも学習でも、人を夢中にさせる大切な秘訣だというわけです。

しかし、ここで重要なのは、どれほどすばらしい検索アルゴリズムを開発し、ユーザーの行動履歴を分析して、情報マッチングを行う”環境”などを整備したとしても、最終的に重要なのはユーザー・インターフェースだということです。何度も言うように、どんなに優秀なシステムであっても、誰も手軽にストレスなく操作できるものでなくては、意味がないのです。「誰もが”かんたんに”活用できるように」が絶対条件なのです。

これからの社会に先端技術は必須です。ロボットや人口知能なども、そのひとつです。そういう先端技術と人間が付き合っていくためには、技術と人が、上手にコミュニケーションをとっていかなければならないわけです。それを実現するには、それを支えるやさしいインターフェースがなければ難しい、ということを如実に示しているのが、「Wii」の成功だと思うのです。
メーカーによる「技術の押し付け」の時代は終わりです。「Wii」は、「実際に利用するユーザーの立場になって考える姿勢」が重要であることを証明しました。と同時に、デジタル化されればされるほど、「触れて気持ちがいいという感覚」が強く求められていることも教えてくれたのです。

ゲームニクスというものは、こうした気遣いや気配りの配慮による、「もてなしの文化」の結晶なのです。言うなれば、茶の湯の時代から綿々と流れている和の心そのものではないでしょうか。
ゲームニクスには、さらにもうひとつの日本文化的な特徴があります。それは「制限されることで工夫をする」というアプローチなのです。ファミコンには十字キーと2つのボタンしかついていないにも関わらず、そのためゲーム開発者はそこで10年以上もゲームソフトを開発していかなければなりませんでした。複雑なゲーム内容を、この限られたデバイスによっていかに実現していくかということは、まさに「制限による工夫」そのものでした。「俳句」は、自らの表現の制限をすることでイマジネーションを拡大させ、「茶室」は、質素にすることでそこに豊かさを追い求め、「浮世絵」は、表現と色数の制限から独自の様式を創出しました。