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[東野圭吾] 天空の蜂


天空の蜂 (講談社文庫)

天空の蜂 (講談社文庫)

奪取された超大型特殊ヘリコプターには爆薬が満載されていた。無人操縦でホバリングしているのは、稼働中の原子力発電所の真上。日本国民すべてを人質にしたテロリストの脅迫に対し、政府が下した非情の決断とは。そしてヘリの燃料が尽きるとき…。驚愕のクライシス、圧倒的な緊迫感で魅了する傑作サスペンス。


原子力発電所をめぐる現代社会が抱える問題をテーマにした社会派サスペンス。地球温暖化防止の流れによりアメリカでも原発の建設気運が高まっているこのごろ。この問題はもう10年以上も前に書かれているが現在もまったく同じ問題が横たわっている。(折りしも中越沖地震で運転停止した原発の再開問題がおきている。柏崎刈羽運転再開へ

犯人が原発の真上からヘリを墜落させると言ってることに対して、国は落とされても安全と言い切る。そう言わないとこれまで国民に説明してきたことと相反するからである。犯人はまさに究極の一点を突いたと言える。どんな銃弾も通さないから安全といってきた防弾チョッキを、あるとき突然着せられて銃口を向けられた感じか。この600ページを超える小説はたった10時間をこれでもかと濃密に描いている。一気読み間違いなし。

「なあ湯原、絶対に落ちない飛行機ってあるかい?ないよな。毎年多くの死者が出ている。それに対して、おまえのできることは何だ?落ちる確率を下げていくことだろう。だけどその確率はゼロにはできない。乗客はそれを承知で、その確率ならば自分は大丈夫だろうと都合よく解釈して乗り込むわけだ。それと同じなんだ。俺たちにできることは、原発が大事故を起こす確率を下げることだ。そしてやっぱりゼロにはできない。あとはその確率を評価してもらうしかない」
「いっていることはわかるが、その説明で納得できる人間は少ないだろうな。飛行機は、乗りたくなければ乗らないで済む」
「問題はそこだ」三島は頷いた。「原発が大事故を起こしたら、関係のない人間も被害に遭う。いってみれば国全体が原発という飛行機に乗っているようなものだ。搭乗券を買った覚えなんか、誰にもないのにさ」

「世の中にはないと困るが、まともに目にするのが嫌だってものがある。原発も結局は、そういうもののひとつってことだ」