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[伊坂幸太郎] 終末のフール


終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。


この世の全ての人の余命が三年という状況。パニックの時は過ぎて生から死へのカウントダウンに入ったとき人は何を感じ悟り生きるのか。ある政治家の言葉、「政治とは、明日枯れる花に水をやる心」を思い出す。明日隕石が落ちてくる。そんなときに自分は花に水をやれるだろうか?百年かかってもダメだろうな、読み終えてそんなことを思った。
いつもの伊坂ワールドとはちょっと毛色の違った小説だと思うけど、ところどころに伊坂テイストというような、「らしさ」を感じる、なかなか面白い話だった。

「梯子のついた高い櫓を作っているんです。材料を車で買ってきて、マンションの屋上で、とんかんとんかん、やってますよ。昔から日曜大工が趣味でしたから、得意なもんです」

「言ってたんだよ」和也はつづけた。「甲子園には魔物が棲んでいます、って」

窓の向こう側、ずいぶんと小さく見える太陽が、僕の右頬を照らしている。世界の終わりがやってきても、きっとびくともしない、真っ直ぐで強靭な眩しさだ。

「その渡部という男は、どうして協力してくれる?」兄が訊ねた。
「渡部さんのお父さんが以前、言っていたんだ。こんなご時世、大事なのは」と杉田は答えた。「常識とか法律じゃなくて」といったん言葉を切り、子供が悪戯を仕掛けるような顔つきになったかと思うと、「いかに愉快に生きるかだ、と」と片眉を上げた。

「わたしが読んだ本に、確かビジネス書だったと思うんですけど、書いてあったんです。『新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい』って」「三人?」「そうなんです。まずは、尊敬している人。次が、自分には理解できない人。三人目は、これから新しく出会う人」

マンションに出戻った時、両親は呆れもしなければ、怒りもせず、淡々としていた。「こんな娘を許してください」と挨拶すると、父も母も愉快げに顔を見合わせて、「かわりに、おまえもいつか、誰かを許してあげなさい」と言った。

「どうしたら子供のためになるのか一生懸命に考えて、決めたなら、それはそれで正しいんだと思うんだよねえ、わたしは。外から見てる人はいろんなこと言えるけどね、考えて決めた人が一番、偉いんだから」