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[城山三郎] 官僚たちの夏


官僚たちの夏 (新潮文庫)

官僚たちの夏 (新潮文庫)

国家の経済政策を決定する高級官僚たち――通産省を舞台に、政策や人事をめぐる政府・財界そして官僚内部のドラマを捉えた意欲作。


高度経済成長を牽引した通商産業省の官僚たち。現在は道路=悪、官僚=悪とマスコミの悪名リストの代名詞とも言える「官僚」だが戦後復興に果たした役割は間違いなく大きい。自分こそが日本の未来を切り開くのだという気概をエリート意識と呼ぶのなら、悪とは呼べない。
自由化の流れで外資に飲み込まれてしまうと危機感のあった通産省のある官僚が産業振興法を成立させようと奔走する物語。残念ながら「スポンサー」のない法案は成立しなかったが、彼らがどのうような思いで時代を駆け抜けたか、面白く読めた。

「心配するな。たとえ秘書課長をやめたあとでも、おれは人事に関心を持って行く。長い目で見る人間が居なくちゃ、ほんとうの人事はできん。おれはそういう人間になる」

「だれかが余裕といったな。そのことと関係がある。そんな余裕が何になる。おれは、余力を温存しておくような生き方は、好まん。男はいつでも、仕事で全力を出して生きるべきなんだ」

「清風自ら来る」とは風越の好きな言葉のひとつだが、現実は必ずしもそうは行かぬことを、風越は十分、承知していた。

「帰る?まだ、おれが起きている中に、帰るというのか」「すると、わたしはいつまで・・・」「いつ、なんてものがあるものか。秘書官は、無定量・無際限に働くものなんだ」「無定量・無際限・・・」庭野は復唱し、絶句した。

「諸君たちの反対論は、よくわかった。それでいて、強行する以上、今後生まれる事態の責任は、全部、おれが引き受ける」男対男の争いは、終わった。

「おれも祈ったよ。何しろ、戦後最大の立法だ。経済の運営全般にかかわろうという法律だからな。対症療法ばかりやっている中に、日本経済全体が底冷えしそうになってきた。そこで、一挙に体質改善をやろうというわけだ」盃のふちをなめてから、鮎川はまた続けた。「大きな夢だよ。おじさんがとりつかれただけのことはある。企業局だけを走らせてはあかん。おれも一心同体の気持ちだ。全省一丸となって、旗あげするんだ」

「あのひとは、風向きなど気にしないし、計算できるひとじゃありませんからね」「しかし政治は風だよ。風をつかまえなくちゃ・・・。いや、政治だけじゃない。人生全体がそうじゃないのかな」