Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[荻正道] パナソニックがSANYOを買収する本当の理由


パナソニックがSANYOを買収する本当の理由

パナソニックがSANYOを買収する本当の理由

 パナソニックグループ三洋電機グループの800のカンパニーを合わせると、全従業員数は38万人近くになるという大企業体が誕生する。2008年の「松下電器」から「パナソニック」への社名変更、「ナショナル」から「パナソニック」へのブランド統一に続いての経営戦略大転換は如何にして決断されたのか? 勇断か? 疑問か? 様々な意見が飛び交う中で、「“経営の神様”松下幸之助が生きていたら、この同族にして巨大なM&Aをどう思っているだろうか?」という声さえ囁かれる。 過去のしがらみ・骨肉の関係を一掃する効果は如何に? 中村・大坪現経営陣にとって5000億円を投じる経営戦略は大パナソニックへの成長エンジンになりうるか?

本書はパナソニックによる三洋電機TOBを題材にして、両社の創業時代からの奇しき因縁を紐解き、松下幸之助の知られざる経営スタイルを解析しながら、内側から見た「骨肉ともいえるM&A」の真相をさぐるノンフィクション大作。


これは面白かった。ビジネス書としても良かったし、ノンフィクションのドラマとしても読み応えのある内容でした。

松下電器」は、松下幸之助という潔癖感の強い理想主義者と、井植歳男という清濁併せ呑む現実主義者との理想的な補完関係によって、この先も幾多の難関を乗り越えていくのである。

幸之助はビジネススクールで経営手法を学んだ人ではない。その役割を果たしたものがあるとすれば、大阪・船場での丁稚奉公の生活であったろう。

権限を徹底して移譲しながらも制御するなどという事業部制のオペレーションは、幸之助だからこそ可能であった。幸之助がいなくなると、事業部の評価は数値に表れる業績のみで行われるようになっていった。本質的に内包されていた事業部制の欠陥は、松下幸之助というオペレータを欠いた瞬間に顕在化してきたのである。

中内の「価格破壊」は、幸之助に言わせれば、製造業者から将来の開発余力を奪うもので、より良い商品の開発の道を断ち切ることで消費者にも不利益を与える暴挙ということになる。中内に言わせれば、製造業者など信用できないのである。

机上で書かれた戦略シナリオなど、想定外の経営環境の変化でどうにもならなくなるのであれば、企業の永続性とは、使命感に支えられた企業文化を愚直なまでに維持することでしか保証されないのではないか、という幸之助の焦慮は、リーマンショックに直撃された今日の経営環境の激変を思えば、きわめて重く深いと言わざるを得ない。

組織が作られ、人が置かれれば、仕事が生まれる。

中村が断行した本社組織のスリム化は、当然ながら「本社費」の減少を意味する。事業部商品の原価に入れられる「本社費」は、従来、売上高に定率をかける比例費であったが、定額にして固定費化した。固定費となれば、事業部サイドでも工夫の余地が出てくる。たとえば、売上を増やせば、固定費が薄まり商品原価は逓減されるのである。中村改革によって、事業部の商品が蘇ったのは、この点が大きい。また、定額にしたことで本社の肥大化が阻止できたのである。

本来、戦略とは将来のあるべき姿に向かって経営資源を何に振り向けるかという「選択と集中」の作業である。中村の改革に「選択と集中」はあったのだろうか。

ウォールマートは、メーカーにローコスト生産を可能にする情報を与えることで仕入価格の値下げを要求する。「エブリデイ・ロープライス(毎日安売り)」は心意気を示す単なるスローガンではなく、合理性を持ったシステムなのである。