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[堂場瞬一] 標なき道


標なき道 (中公文庫)

標なき道 (中公文庫)

「絶対に検出されないんです」最後の五輪代表選考レース直前に一本の電話がかかってきた。「勝ち方を知らない」ランナー・青山に男が提案したのはドーピング。卑劣な手段を拒んだ青山だが、すでに男の手がライバルにも伸びていたことを知り…。男たちの人生を懸けた勝負が始まる。


日本最高記録保持者であるが怪我に泣かされ続けるマラソンエリート須田、4年前に代表選考レースでいい記録を出しながら陸連を批判して落選し復活をかけるアウトサイダー武藤、常に上位に食い込み安定眼抜群だが優勝経験のない青山。環境も性格も異なる大学同窓の三人が五輪選考レースに臨む話。心が健康なときは善悪判断の視界が良好だろうからいいけれど、不健康に陥ったときは視界不良となり善悪の境界線がぼやけて悪魔のささやきに心を許してしまいかねない。自分ならどう判断できるか。「マラソンとは人生そのものなり」という言葉があるように、スポーツに限らず人生の要所において誰でも経験する場面かもしれない。

「そうは言っても無理があるわよ。『シュートで七十行』って知ってる?「いや」「昔、田淵が阪神にいた頃、どんなボールをヒットにしても『シュート』としか言わなかったんですって」「何でまた」「シュートが苦手だったから。それで、いつも『シュートを打った』って言ってれば、他の球団のピッチャーは『田淵はシュート打ちが得意なんだ』って信じると思ったんでしょうね。阪神担当の記者は、いつもその一言だけで七十行のトップ原稿を書かなくちゃいけなかったんですって。それで生まれた伝説が『シュートで七十行』」

(解説より)そのことを堂場瞬一は、「無事これ名馬なり」的存在のままそういう現実から離れて朽ちるか、それとも「悪魔」の誘いに乗ってでも一花咲かせてみるかの岐路にある三十歳になった青山の気分として、描いているのである。