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[伊坂幸太郎] オー!ファーザー


オー!ファーザー

オー!ファーザー

みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。


高校生の由紀夫は母親と四人の父親と暮らしている。この荒唐無稽な設定が伊坂ワールド。由紀夫の同級生・多恵子と鱒二、登校拒否の小宮山。由紀夫と四人の父親との生活を中心に奇妙だけれど淡々とした生活にある日突然ドックレース場で鞄をすり替えられる場面を目撃したことに端を発し事件に巻き込まれる由紀夫を四人の父親が助ける。それぞれの強烈なキャラが楽しい。

「嘘だろ」と四人の声が重なる。面倒くさいので詳細を話のはやめた。ただ、四十を過ぎた母親が、若者の集うコンパに顔を出したところで、いったい何が不安なのか、と疑問は感じた。むしろ、合コンに参加した男性側の狼狽を心配すべきで、「歳を考えろ」と非難するのが正しいのではないか、と。そう言うと、彼らはいちように首を振り、「おまえは、彼女の魅力に気付いていない。分かっていない」と語調を強めた。

「わたしさ、そもそもこういう問題っておかしいと思うんだよね」とはじめた。「xを求めよ、とか、証明せい、とかさ、居丈高じゃない。普通はもっと、求めてください、とか、証明したらどうですか、とか丁寧に言うべきだと思うんだよね」

『人が生活をしていて、努力で答えが見つかるなんてことはそうそうない。答えや正解が分からず、煩悶しながら生きていくのが人間だ。そういう意味では、解法と解答の必ずある試験問題は貴重な存在なんだ。答えを教えてもらえるなんて、滅多にないことだ。だから、試験にはせいぜい、楽しく取り組むべきだ』とは悟の言葉だ。小説をじっと読み進める悟に、愁い溢れる眼差しでテレビの中の漫才師を見る葵、新聞と首っ引きで犬のデータを検討している鷹、何かを思案するかのように太い腕を組み、膝を組んでいる勲、その四人の横で由紀夫は黙々と勉強を続けていた。「試験、どうにかなりそうか?」と悟が訪ねてきたので、「何とか」と応える。

「もしかするとあれですよ」多恵子がそこで指を鳴らした。「見た目が怪しい人が、怪しいことを言うと、マイナスにマイナスをかけてプラスみたいな感じになっちゃうんじゃないですか。マイマイがプラ理論ですよ」

「他人より優位に立つのは、情報を一番持ってる奴じゃないか」「大事なのは?」「勘のほうじゃないか」「俺は勘よりも情報、だと思う」「それならよ」と鷹が言う。「サバンナに放り出された時にお前を救うのは情報か?ライオンに詰め寄られている時に、パソコンを開いて『ライオン サバンナ 逃げる方法』なんて検索かけんのか」

「ペーパーテストができるよりは、良いだろ。抽象的な問いに対して、自分の知っている数字で、答えを導き出すんだ。そして、あとは気配りとユーモアが重要だ」「気配りとユーモア?」「どんなに発想が豊かで、賢くても相手を不快にして、退屈にさせるようだったら意味がない。たとえば、ある男は物凄く優秀な論文を書いて、誰も考えついたことのない理論を作り上げた。けれど、彼の友人や家族は、彼と一緒にいてもちっとも楽しくない。ある女性は発明や論文とは無縁の、住宅メーカーの営業社員だが、彼女は自分の失敗談を話すのが得意で、家族や顧客をいつも笑わせ、楽しませている。どちらが優秀な人間なんだ?」

「人間の動力の一つは、自己顕示欲だ」と悟は言った。「自己顕示欲」と勲が繰り返す。「ジコケンジヨク。けんじ君は事故をよく、起こすってやつか」鷹はどうでも良さそうだった。