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[荻原浩] さよなら、そしてこんにちは


さよなら、そしてこんにちは (光文社文庫)

さよなら、そしてこんにちは (光文社文庫)

笑い上戸で泣き上戸の営業マン・陽介の勤め先は葬儀会社だ。出産直前で入院した妻がいるがライバル社を出し抜いた葬儀があり、なかなか病院にも行けない。生まれてくる子どもの顔を葬儀の最中に思い浮かべ、笑顔が出そうになって慌てる。無事仕事を終え、病院に向かう陽介にまた厄介な案件が…(表題作)。―人生の悲喜こもごもをユーモラスに描く傑作短編集。


葬儀会社に勤める陽介は仕事場でも生まれてくる子どもが気になってしかたがない(さよなら、そしてこんにちは)。不登校の息子を抱えた父親がリストラされて郊外に農園を開くといって家族は携帯の電波も入らない場所に引っ越すが・・・(ビューティフルライフ)。テレビ番組に翻弄されるスーパーの仕入れ担当者の憂鬱・・・(スーパーマンの憂鬱)。幼子を持つ主婦が子ども向け戦隊もの番組のヒーローに恋をして・・・(美獣戦隊ナイトレンジャー)。腕はいいが愛想なしの寿し職人の店にグルメ評論家のような男がやってきて・・・(寿し辰のいちばん長い日)。イタリア帰りの主婦がレシピ本を出版し一躍人気料理人になりテレビ出演や雑誌取材にひっぱりだことなり・・・(スローライフ)。九歳も若い妻と子どもをもつ住職がクリスマスパーティをせがまれて・・・(長福寺のメリークリスマス)。一生懸命に生きる普通の人々の日常に降り注ぐ悲喜こもごもを綴った短篇集。みんなハッピーな結末ではないけど、どこかほっとする物語です。

日本は言霊の国だ。昔々のただの語呂合わせが、冠婚葬祭や行事祭事に幅をきかせる。男と女の大厄の四十二と三十三だって、どう考えても「死に」と「散々」から連想しただけ。「コーディネートは、こーでねえと」と少しも変わらない駄洒落だ。だが、迷信だとわかっていても、たいていの人間はやめられない。「みんながそうしている」からだ。

社長によく説教されたのはこの頃だ。「俺たちが一緒に悲しんでどうする。いまは悲しいかもしれないけど、残された人には残された人生があるんですよ、そう気付かせるのが、俺たちの仕事だろ。違うか」寝台車のガソリン代にまで小言をいう男にしては、いいことを言う。

―謝る必要なんて、どこにもないぞ。大切なのは、死んじまった人より、これから生まれてくる赤ん坊だよ。ご遺体は古いアルバムよ。ページをめくり返すだけ。遺影はいつだって見られる。子どもは一秒ごとがジャッターチャンスだもの。