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[東野圭吾] 白夜行


白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

悪の吹きだまりを生きてきた男。理知的な顔だちの裏に、もう一つの顔を持つ女。偽りの昼を生きた二人の人生を、“質屋殺し”を追う老刑事の執念に絡めて描く。ミステリーの枠を広げた一大叙事詩。


だいぶ前にTBSでドラマ化され話題となり、最近になって今度は映画化されたからか、本屋でも平積みになってたので手にとってみたら、その分厚さに躊躇したけど、ここで返したら二度と読まないと思ったので思い切って買いました(笑)。850頁の文庫本は初めてです。海堂尊さんの作品なら確実に上下巻で発売されてたと思うような。

単行本合わせて200万部のベストセラーなのでどんな作品なのかわくわくしながら読んだけど、案の定すごい小説でした。読売ジャイアンツが9連覇した年、大阪の下町で起こった殺人事件は容疑者は浮かぶけれど決定的な証拠が見つからず迷宮入りしてしまい、事件の容疑者の娘と被害者の息子、その後の人生を追って物語は進んでいきます。心に傷を負った二人は別々の人生を歩みますが、その美貌と知性で成功を駆け上がっていく雪穂、一方で危ない仕事に手を染めていく亮司。すでに時効になったその事件を執念深く追い続ける刑事。19年後、真相にたどり着いた刑事は雪穂と亮司と相対します。さて結末は・・・。

殺人事件後、主人公の雪穂と亮司がはたして接点を持っていたのか、そもそもないのか、最後の最後まで見せない手法は、宮部みゆき作の「火車」のラストシーンを思い出します。腹にずっしりくる重厚な小説でした。

「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」「白夜?」「いや、何でもない」

依頼者のための椅子に男を座らせ、今枝は自分の席についた。じつは依頼者用の椅子は少し低くしてある。それだけの工夫で、仕事に関する話し合いをする時、微妙に優位に立てるものなのだ。だがその神通力もこの男には無力かもしれないと、皺だらけの顔を見て思った。

「現在どこにいるかは全く不明です。しかし、確実にこの男が現れるところがある」「どこですか」「それは」笹垣は唇を舐めて続けた。「唐沢雪穂の周辺です。ハゼはエビのそばにおると相場が決まってます」

二人で心斎橋を歩き、道頓堀を渡り、たこ焼きを食べた。

黒い薔薇だ、と彼は思った。これほど華やかで、強烈な輝きを持った女性は見たことがなかった。黒い衣装を身に纏ったことで、雪穂の魅力が一層際立ったようだ。

「ねえ、夏美ちゃん。一日のうちには太陽の出ている時と、沈んでいる時があるわよね。それと同じように、人生にも昼と夜がある。もちろん実際の太陽みたいに、定期的に日没と日の出が訪れるわけじゃない。人によっては、太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。で、人は何を怖がるかというと、それまで出ていた太陽が沈んでしまうこと。自分が浴びている光が消えることを、すごく恐れてしまうわけ。今の夏美ちゃんがまさにそうよね」いわれていることは何となくわかった。夏美は頷いた。「あたしはね」と雪穂は続けた。「太陽の下を生きたことなんかないの」「まさか」夏美は笑った。「社長こそ、太陽がいっぱいじゃないですか」だが雪穂は首を振った。その目には真摯な思いが込められていたので、夏美も笑いを消した。