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[三浦綾子] 塩狩峠


塩狩峠 (新潮文庫)

塩狩峠 (新潮文庫)

結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた…。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。


北海道を語るうえで、読んでおかなくてはいけないと思っていた本書。

キリスト教徒であった両親と妹に育てられ、自身は異国の宗教に馴染めなくて嫌悪していた。幼なじみでもある親友と、愛した人が信者であったため、徐々にその教えに惹かれるようになり、旭川で洗礼を受けて自ら布教活動を行うまでになった。ある日、札幌に待つ恋人と結納を交わすために乗った列車が暴走し、大勢の命を守るために自らの命を投げ捨て、32年の生涯を終えた青年の物語である。

作品のモデルになった塩狩峠の列車事故は明治42年に実際に起こったもので、この列車事故で犠牲になった鉄道院職員の長野政雄氏の行動に感銘した三浦綾子氏が取材し小説にしたそう。著者自身も病床で苦しんでいるときに洗礼を受けたクリスチャンであり、布教のための作品と揶揄されるところもあるようだが。

正直、エンタメ性に欠けるし、ちょっと美談すぎる感はあるけれども、「どう生きるか?」や「自己犠牲」の考え方など、小説に形を変えた自己啓発本として捉えれば、違和感無く読める名作だと思う。