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[有川浩] 県庁おもてなし課


県庁おもてなし課

県庁おもてなし課

地方には、光がある―物語が元気にする、町、人、恋。とある県庁に突如生まれた新部署“おもてなし課”。観光立県を目指すべく、若手職員の掛水は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家に観光特使就任を打診するが…。「バカか、あんたらは」。いきなり浴びせかけられる言葉に掛水は思い悩む―いったい何がダメなんだ!?掛水とおもてなし課の、地方活性化にかける苦しくも輝かしい日々が始まった。


役所の改革を扱った作品は『県庁の星』、『メリーゴーランド』があるが、本作も高知県の観光振興を目指して作られた「おもてなし課」のメンバーが役所の体質と闘いながら苦難を乗り越え成功するまでの物語である。旧態勢力との闘いという点では企業小説にもある構図で定番ではあるが、高知県の自然の魅力を堪能しながら、さわやかに読了することができた。この3月、大阪府泉佐野市が市の名前を対象にネーミングライツを募集することが話題となった。これまでの常識を脱ぎ捨てて新たな自治体像があちこちで出てくるのかもしれない。

「蛇口全開で何時間も水出しっぱなしにする並の無駄遣いした後に、一滴二滴を慌てて惜しむような真似してもさあ。蛇口全開ですよって指摘したの俺なんだし、最後まで話聞いとけば?」「は、はい・・・」「あのさ、あんたがいるその建物の中じゃどうか知らないけどさ、その外じゃ時間って一番高い商品なんだよね」「は、はい、それはもう充分・・・」

「そうそうそう! 観光客が高知に求めゆうもんは今までの定番お仕着せやなく、正にそういうもんにシフトしてきゆうがないですやろうか」だとしたらアウトドアやネイチャーを前面に押し出した清遠の案は時流に乗っている。しかも流行り廃りの関係ない時流だ。自然保護の動きは世界的なものだし、高知はどっちにしろ「自然を剥がしたら価値がなくなる」土地だ。

「文化財やからとか、そういう難しいことやなしに。よそから来たら楽しいです。あんなに雑多で無秩序な市が一キロも続いちょったら、そこを冷やかして歩くのはすごく楽しいです」同じタイミングで同じことを思い出していたことがやけに」くすぐったかった。「そういうことやにゃ。ただ表面的にプロデュースしてもいかん。売り物のよさを売り手が理解しとかんと客にも届かん」

民間企業でもプロジェクトに対するバカバカしい横やりは発生する。吉門自身も作家になる前、勤めていた商社で体験した。利益を生み出す企画だと分かっていても、それを手柄にできるのが自分でないならいっそ潰れてしまえという理屈は存在する。概ね管理職の層で起こる軋轢だ。だが、企業なら横やりを仕掛けられる課もそれを甘受することはない。右の頬を張られたら左の足を素知らぬ顔で踏み返す。グレーゾーンで反則スレスレの駆け引きを展開しても、話が通ればそれで勝ちだ。勝てば官軍、利益を出せば勝ち方に文句をつける奴はいない。

「まあ、自治体というもんは効率よりも公に言い訳が立つことを優先せなあいかん組織よ」

独創的な発想を、なんて命令しておいて、いざとなったら無難に日和ってブレーキをかける。一番大事な決定は一課のレベルには預けない。