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[百田尚樹] 海賊とよばれた男

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 下

海賊とよばれた男 下

「ならん、ひとりの馘首もならん!」--異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とは--出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベル、『永遠の0』の作者・百田尚樹氏畢生の大作その前編。

2013年本屋大賞受賞作品。映画化される『永遠のゼロ』の作者による、戦前戦後の混乱期に「家族」を守るために戦った実在する人物を描いたノンフィクション大作。正直これまでに感じたことのない読後感がありました。それは「沈まぬ太陽」と似ているようででも少し違う感覚。イラクに日章丸を派遣するシーンは涙ものです。「エネルギー革命、敗戦、GHQ、講和条約、朝鮮戦争、官僚、護送船団方式、イラク、石油メジャー、・・・」。いろんなキーワードにアプローチしていて、「永遠のゼロ」同様に戦後史の勉強にもなります。主人公が降りかかってくる理不尽と戦うモチベーションは決して「お金儲け」ではなく「自立する日本」のためであり、視線がとても高いのです。実業家という観点からは現代でいうソフトバンクの孫さんと若干イメージが被ったけどみなさんはどうでしょう。

「愚痴をやめよ」社員たちははっとしたように鐵造の顔を見た。甲賀もまた驚いて鐵造を見た。「愚痴は泣きごとである。亡国の声である。婦女子の言であり、断じて男子のとらざるところである」P16

「君をラジオ部の部長にする」藤本は一瞬言葉を失ったが、ようやく「お待ち下さい」と言った。「私はご存知のように海軍しか知らない男です。経営も商売も何ひとつ知りません」しかし鐵造は平然と言った。「帝国海軍も聯合艦隊も今はない。君の人生は、もう海軍にはないのだ」P44

「士魂商才」この言葉は鐵造の生涯を通しての座右の銘となった。P210