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[池井戸潤] ロスジェネの逆襲

ロスジェネの逆襲

ロスジェネの逆襲

ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。直木賞作家による、企業を舞台にしたエンタテインメント小説の傑作!


読了後の清々しさは前2作と同様。功労者の半沢を子会社に出向させた中野渡頭取は本物の黒幕じゃないかと思ったが本作を読んで意外にそうではないと思った。「どんな場所であっても大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ」は頭取の言葉。「戦え森山、オレも戦う。誰かが戦っている以上、世の中は捨てたもんじゃない」戦い続ける半沢の言葉には説得力がある。本作は巨悪との戦いのみならず出向先の部下に半沢流を説くシーンも多くて見ものです。しかし最後に頭取が下した半沢の人事は予想外だった。続編にも期待。

半沢語録

「世の中と戦うというと闇雲な話にきこえるが、組織と戦うということは要するに目に見える人間と戦うということなんだよ。それなら俺にでもできる。間違ってると思うことはとことん間違っているといってきたし、何度も議論で相手を打ち負かしてきた。どんな世代でも、会社という組織にあぐらを掻いている奴は敵だ。内向きの発想で人事にうつつを抜かし、往々にして本来の目的を見失う。そういう奴らが会社を腐らせる」P159

「オレにはオレのスタイルってもんがある。長年の銀行員生活で大切に守ってきたやり方みたいなもんだ。人事のためにそれを変えることは、組織に屈したことになる。組織に屈した人間に、決して組織は変えられない。そういうもんじゃないのか」P173

「だけど、それと戦わなきゃならないときもある。長いものに巻かれてばかりじゃつまらんだろう。組織の論理、大いに結構じゃないか。プレッシャーのない仕事なんかない。仕事に限らず、なんでもそうだ。嵐もあれば日照りもある。それを乗り越える力があってこそ、仕事は成立する。世の中の矛盾や理不尽と戦え、森山。オレもそうしてきた」P213

「銀行に戻ったほうがいいなんてのは、錯覚なんだよ」森山は、黙って半沢を見ている。「サラリーマンは、いや、サラリーマンだけじゃなくて全ての働く人は、自分を必要とされている場所にいて、そこで活躍するのが一番幸せなんだ。会社の大小なんて関係がない。知名度も。オレたちが追求すべきは看板じゃなく、中味だ」P231

「部長はそれでいいんですか。いまのポストを外されて、関係のない場所に飛ばされてしまうのかも知れないのに」「だから?」半沢は問うた。「そんなことは関係ない。いまオレたちがやるべきことは、東京中央銀行がいくら資金を積み上げようと、人事権を振りかざそうと、買収を阻止することじゃないのか。人事が怖くてサラリーマンが務まるか」P296

「銀行が政治決着しようと、我々は上っ面やご都合主義ではなく、本質を睨んだ戦略を選択したい。それこそが勝利の近道です」P306

「仕事の質は、人生そのものの質に直結しますから」(玉置)P316

「どんな小さな会社でも、あるいは自営業みたいな仕事であっても、自分の仕事にプライドを持ってるかどうかが、一番重要なことだと思うんだ。結局のところ、好きな仕事に誇りを持ってやっていられれば、オレは幸せだと思う」(森山)P326

「我々の稟議をゴミ扱いするのか、君は」唾を飛ばして激昂した伊佐山を、半沢は平然と見返した。「ゴミ扱いしているのではありません。ゴミだと申し上げているのです」P336

「あきらめの悪い人種なんだよ、銀行員ってのはさ。ついでにいうと、実力もないのにプライドだけ高い奴ってのが一番手に負えないんだ。しかも、そういう奴は掃いて捨てるほどいる」P357

「世の中を儚み、文句をいったり腐してみたりする。でもそんなことは誰にだってできる。お前は知らないかも知れないが、いつの世にも、世の中には文句ばっかりいってる奴は大勢いるんだ。だけど、果たしてそれになんの意味がある。たとえばお前たちが虐げられた世代なら、どうすればそういう世代が二度と出てこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないか」半沢は続ける。「あと十年もすれば、お前たちは社会の真の担い手になる。そのとき、世の中の在り方に疑問を抱いてきたらお前たちだからこそ、できる改革があると思う。そのときこそ、お前たちロスジェネ世代が、社会や組織に自分たちの真の存在意義を認めさせるときだと思うね。オレたちバブル世代は既存の仕組みに乗っかかる形で社会に出た。好景気だったが故に、世の中に対する疑問や不信感というものがまるでなかった。つまり、上の世代が作り上げた仕組みになんの抵抗も感じず、素直に取り込まれたわけだ。だがそれは間違っていた。そして間違っていたと気づいたときには、そうどうすることもできない状況に置かれ、追い詰められていた」P365

「批判はもう充分だ。お前たちのビションを示してほしい。なぜ、団塊の世代が間違ったのか、なぜバブル世代がダメなのか。果たしてどんな世の中にすれば、みんなが納得して幸せになれるのか?会社の組織を含め、お前たちはそういう枠組みが作れるはずだ」P366

「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で酷く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐って行く。組織が腐れば、世の中も腐る。わかるか?」P367

「そしてオレも戦う。誰かが、そうやって戦っている以上、世の中は捨てたもんじゃない。そう信じることが大切なんじゃないだろうか」P367

「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材とはそういうもんじゃないかな」(中野渡)P375