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[池井戸潤] 陸王

陸王

陸王

勝利を、信じろ。足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。このシューズは、私たちの魂そのものだ!埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金操りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。これまで培った足袋製造の技術を生かして、「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか?世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足―。従業員20名の地方零細企業が、伝統と情熱、そして仲間との強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!


池井戸作品の「現代版水戸黄門」といえる半沢直樹シリーズ下町ロケットなど大好きな小説が多いですが。この陸王も業界大手のシーズメーカー、アトランティス社に挑む弱小老舗メーカーのビジネスドラマ。最後に悪い奴らが返り討ちにあうのはスカッとして気持ちいいです。現実と小説は違うにしろ、常に問題意識をもっていると目の前に現れた事象がチャンスと映るか、または映らないかの差につながるような気がします。社会が変化するなかで「斜陽産業」と呼ばれてしまうのは致し方ないですが、会社を存続させるには常に小さな脱皮を繰り返していかないと、大きな波に飲まれてしまいかねない。池井戸作品は中小零細経営者の背中を押す応援歌でもある。

こういうものは元来、「やる」と決めたら、ある程度の推進力をもって進めないと、アイデアだけで終わってしまうものなのだろう。P43

「やはり、一番大きかったのは、実績がないという点がですかね。ランニングの怪我を未然に防ぐ構造というお話は魅力的でしたが、このシューズで本当に怪我が減ったという科学的な実証はこれかはですよね。当校が実験台にされるのではないかという意見も出ました」P99

まさに、一敗地に塗れる、だ。P100

「結局、ソールの開発費が高いことがランニングシューズ業界への参入障壁なんでしょう」P130

決して路頭に迷うことのない安全な場所にいる者に、今日、そして明日、そして明後日と、一日一日を必死で生きている者の心細さはわからない。P156

人が必死で生きようとするのを否定できないのと同じように、会社の経営者がなんとか生き残ろうと努力する姿もまた、決して否定できないと思う。たとえそこにはったりや嘘が混じっていたとしても、人生を賭している人間こ姿には、どこか尊さがあるのではないか。P156

「企業規模で勝とうといっているんじゃありません。商品コンセプトと品質で勝とうといっているんです」P214

「気づかないほど当たり前のものの中に、本当に大切なものがあるのかも知れません。人の絆もそうなんじゃないでしょうか」P395

「その全てに責任を取らなきゃならない。いいときも、悪いときも、それをまともに受け止めるしかない。厳しいようだが、そういうことだぜ、会社を経営するってことは」P480

「こんなクソ雑誌に抗議する暇があったら、走ってこい、茂木。お前が納得できる状況は、お前の力で引き寄せるしかない。オレも、誰も助けられない。お前しかいないんだ」P482

「いま、新規事業は存廃の危機に瀕していますが、万事順調に成長する事業なんかないですよ。これを乗り切ったとしても、また同じようにギリギリの決断を迫られるような状況がいつか訪れるでしょう。結局、会社経営なんてその繰り返しなんです。どこまで行っても、いつまで経っても、終わりなんかない」P487

「いまランニングシューズの業界へ進出しようとしていますが、だからといって足袋作りを忘れることはありません。そこにこそ、こはぜ屋のアイデンティティがあるわけですから。百年という時間に値段をつけることはできません。ですが、値段をつけられないものにも価値はあるんです。利益は小さくても、ウチはそうやってこの世間の片隅に、狭いながらも生きていけるだけの版図(はんと)を得てきました。それに価値はないんでしょうか」P536

収益競争から離れた場所にいるからこそ、守られてきたものもあるんです。P537

ビジネスとは本来、釣り合っているものです。P541

だけど、いまのこはぜ屋さんは、いってみれば二年前のオレと同じなんですよ。ピンチで困り果て、必死で這い上がろうともがき苦しんでいる。P564

その中にいて、宮沢は悟った。このゴールが、新たなスタート地点になることを。歓声の舞う熱狂のロードレースへ、経営という名の終わりなき競争へ、宮沢の挑戦がいま再び始まったのだ。P579