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[梅田望夫] ウェブ時代をゆく


ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

現代は、江戸から明治に匹敵する「時代の大きな変わり目」だ。ウェブという「学習の高速道路」によって、どんな職業の可能性がひらかれたのか。食べていけるだけのお金を稼ぎつつ、「好き」を貫いて知的に生きることは可能なのか。この混沌として面白い時代に、少しでも「見晴らしのいい場所」に立ち、より多くの自由を手にするために――。オプティミズムに貫かれ、リアリズムに裏打ちされた、待望の仕事論・人生論。『ウェブ進化論』完結篇。

前作「ウェブ進化論」がグーグルをはじめとする新興勢力がインターネットでこんなふうに世界を変えていきますよ、そんな中であなたはどう生きますか?的な説き方だったのが、今作は著者自身の体験談も交えて、日本のシステム(大企業)で息苦しい思いをしているひと(若者)へのメッセージとなっている。

顔の見えないネット世界は危険だというペシミズム(悲観主義)に対してオプティミズム(楽観主義)を貫く訳を、また「群衆の叡智」、「学習の高速道路と大渋滞論」、「ロールモデル思考法」など自他論を含めインターネットがもたらす新しい生き方があるんだと自身の経験やいろんな例を出して述べている。

・・・直観で「ロールモデル(お手本)」を選び続ける。たった一人の人物をロールモデルとして選び妄信するのではなく、「ある人の生き方のある部分」「ある仕事に流れるこんな時間」「誰かの時間の使い方」「誰かの生活の場面」など・・・

いいお手本がある組織は伸びる。ない場合、星野阪神が広島からFAの金本を獲得したような手もあるし。人間は弱いもの、哲学やスローガンをいっぱい並べて頭で理解するより、たった一人のお手本となる人間を身近に感じるほうがよっぽどいいってこと。

ロールモデル思考法、行動という観点から三つのアドバイス・・・
環境を変える前に「時間の使い方の優先順位」を変えること。時間の使い方の優先順位を変えるにはまず、やめることを先に決める。長期「なりたい自分」と短期「なれる自分」を意識して、現実的であること。

やめることを先に決める。しかし捨てる決断ができない経営者は多い、過去への愛情があればあるほど。経営哲学の重しを市場・業界のなかに置くか、会社のなかに置くかの違いか。

小回りのきくグループが疾走してできる程度のことは、コスト構造の面からも「新規事業としてやるべきではない」と大企業経営者も考えるようになっている。米国では既に十五年近く前から、大企業が飛び地の新規事業をやたらに起こしても確率が低いので、本業と本業周辺の新技術や新製品の開発に注力し、新規事業の創造はベンチャーの多産多死の市場メカニズムに任せ、そこを勝ち抜いたベンチャーを必要ならば買収するという経営手法が定着した。

経営コンサルが本業の著者ならではの視点も。この考え方は社内にしか顔が向かず、汗かきを美徳とする経営者ではでてこないだろう。

「もうひとつの地球」の登場によって、時間の使い方次第で、差はどんどんつくようになる。それは不可避だ。たとえばネット上にできた「学習の高速道路」は、高速道路といっても学校のカリキュラムほどには整備されておらず、しかも少し先には霧がかかっている。そして誰からも走ることを強いられない。でもそれが楽しければ、高速道路の先を自ら発見しながら疾走することは自由だ。「時間」「距離」「無限」の概念を揺るがすネットの発見によって、個の自由な意思、それを反映した個の時間の使い方が、個の人生を決める度合いが大きくなる。そしてその責任は個が引き受けていかなければならない。リアル世界の物理的制約に規定されて生きざるを得なかった昔に比べて、制約が取り払われた分、個の目的意識がより問われる時代になったということだ。

目の前にやることが用意されてただがむしゃらに処理してきた人間にとって、「個の目的意識」といわれても、つらいって人がほとんどだろう。自己主張の強い欧米ではこういう意識に乗って成功する人が多いのかも知れない。

ただ学習する環境がネット社会に無限にある時代、個の目的意識の差がそのままある意味格差につながる時代なのは信実だろう。