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[今野敏] 隠蔽捜査


隠蔽捜査 (新潮文庫)

隠蔽捜査 (新潮文庫)

竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は〈変人〉という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。


主人公竜崎は「家庭のことは妻の仕事」「東大以外は大学ではない」「部下であっても信用してはいけない」を持論としている、鼻につく奴です。そんな堅物な主人公ですが読み進んでいくうちに彼の考え方に共感していきます。著者のストーリー展開が憎いです。伊藤忠商事前社長、丹羽宇一郎氏が本などで「エリートなき国は滅ぶ」と語られていますが、この本を読むとなるほど、そうだと感じます。強烈なリーダーシップと周囲に圧倒的な力の差を見せる一部のエリートが、高度な判断で組織の舵取りを行う。ほんとうの意味でのエリートとは、家柄や学歴などではなくその人の心にある「生き方」のことを言うのかも知れません。

無能な上司は、何か問題が起きたときに、それが誰のせいかを追求したがる。有能な上司は、対処法を指示し、また何かのアイデアを部下に求める。


伊丹はまるで竜崎を世間知らずの理想主義者のようにいった。だがそれは間違っていると、竜崎は思った。世間知らずなわけではない。省庁の派閥に関しての情報だって充分に持っていた。ただ、そんなものより、原理原則のほうが大切だと考えているだけだ。理想主義というのとも、少しばかり違う。竜崎は決して空の上の理想を追い求めているわけではない。足元にある原則を見つめているに過ぎないのだ。


「何かの工作をすると、それが暴露されそうになったときに、また新たな工作が必要になる。その新たな工作は、最初の工作よりもエネルギーが必要なんだ。そして、それが次々と連鎖して、しまいにはとてつもない大問題に発展してしまうんだ。そんなとき、人は思うんだ。ああ、最初に本当のことを言っておけばよかったなと・・・」


「俺が避雷針になる」


警察組織に都合のわるいことが起こったときに、組織を守るためにこそ隠蔽するべきなのか、起こったことに対して逃げずに正面から立ち向かうことが結局は組織を守ることなのだ、と2つの理論の対決が面白いです。

その人が本物かどうか試されるのは平時のときではなく有事のときの立ち居振る舞いと思います。この本はそういった責任ある立場のひと達が読むべき危機管理シミュレーションの教科書と言えそうです。