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[小杉健治] 絆


絆 (集英社文庫)

絆 (集英社文庫)

“夫殺し”の起訴事実を、すべて認めた被告弓丘奈緒子。執拗に無実を主張する原島保弁護士。犯行に使われたと思われる柳刃包丁を買ったのは奈緒子だ、と認める証人。殺された夫には愛人がいた。離婚話もあって…状況は被告不利に傾むいてゆく。だが、裁判の進行につれて明らかになる秘められた意外な真実とは。人間の心の気高さを謳いあげる感動の長編法廷ミステリー。第41回推理作家協会新人賞受賞作。


「父親からの手紙」で著者の小説を初めて読んでとてもよかったので書評にあったこの本を買いました。この小説もとても感動したというか、読み終えたあとのなんて言うか重たーい感覚は東野圭吾の「手紙」以来です。もちろんいやな重たさではないです。物語のほとんどが法廷で繰り広げられるます。最初は容疑を否認していたが途中からすべて認めた奈緒子。原島弁護士は被告人は誰かの罪をかぶろうとしている、と無罪を主張します。その裁判のなかで明らかにされていく真実、社会的弱者(1987年に刊行された本書中では「精神薄弱、精神分裂病」とありますが、現在は「知的障害、統合失調症」と呼称される)の問題、奈緒子が殺人罪をかぶってでも守ろうとすることとは?とても面白い展開です。

「いえ、ワタシは知恵遅れだったから不幸だったとは思いません」
私はその言葉を聞いて、ショックを受けた。知恵遅れだから、不幸だというのは、私たち健常者のかってな見方に過ぎないのだ。本人は精一杯生きているのだ。

「精神薄弱の人の悲劇とは障害そのものにあるのではなく、この社会にじゅうぶんに受けいれられないところにある・・・」


文中の言葉がやさしさにあふれていて読んでいて本当に気持ちいいです。物書きという職業は新聞記者や作家、ライターなど幅広くありますが、作品が娯楽性として多くの人に感動を与えつつ、読み手の心に潜む偏見をやさしくさりげなく矯正する薬にもなる、そんな「物書き」という職業、素晴らしいと思います。