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[海堂尊] ジェネラル・ルージュの凱旋


ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋

桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の“火喰い鳥”白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。
 将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか……。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。


田口&白鳥シリーズ3部作、「チームバチスタの栄光」、「ナイチンゲールの沈黙」とこの「ジェネラル・ルージュの凱旋」。相変わらず面白いです。映画「踊る大捜査線」にもあるように、大きな組織において末端の現場と上層部の意識の違いを題材とした物語は、組織で働いたことのある人ならば誰もが共感しますし、悪役の上層部が下っ端の主人公にやり込められるシーンは見ていてスカっとします。

時間を見計らってやってくる患者さんはいないので救急医療の現場で働く人は24時間体制の激務で咄嗟に判断が求められる場面もあります。緊急事態下において、個人が下す短期スパンにおける最善の判断と、組織の秩序を保つために長期スパンで求められる判断は往々にして相容れないものとなります。そこは絶妙なバランス感覚だったり、当事者同時が何とか折り合いを見つけているのだと思いますが。

速水が見守る中、姫宮は″淡々と″プラス″おそるおそる″という、互いに相容れるはずのない形容詞のハイブリッドの様子で、与えられた課題をこなしていた。

「あんたは何ひとつ背負わず、自分だけ安全地帯にいるからだ。そんな人間に他人を審査したり、ましてや裁く資格なんか、ないのさ」

失敗したときの責任を取りたくないから決して指示は出さない。成功したときの手柄は欲しい。そんな人の言ってることは、「言語明瞭意味不明」

「・・・。倫理問題ばかり声高に言い募る人間は、自分自身は何も創れない。やれるのは他人のあら探しだけ。糾弾すべきは巨悪には小声しか上げなれない。倫理ってやつは、本当に人々の幸福を考えているのか?」

「師長にふさわしい人間なんて、この世にはいない。みんな、どこかで失格している。ただ何とか折り合いをつけているだけ」

「収益だって?救急医療でそんなもの、上がるわけないだろう。事故は嵐のように唐突に襲ってきて、疾風のように去っていく。在庫管理なんてできるわけもない。小児科も同じ。産婦人科も、死亡時医学検索も。現在の経済システム下では医療の根幹を支える部分が冷遇されている。俺たちの仕事は、警察官や消防士と同じだ。トラブルが起こらなければ、単なる無駄飯食い。だからと言って国家は警察官や消防士に利益を上げることを要求するか?そんな彼等に税金という経済資源を配分することを、国民は拒否するのか?」

「佐藤ちゃんは、俺がワガママだから、部長を名乗るのはおこがましいと言った。だが、そこだけは違う。周囲のことなど考えずにワガママいっぱいに振る舞う。それこそがトップというものだ。よく覚えておけ」