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[渡辺久信] 寛容力

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~

シリーズ前の大方の予想に反して監督就任1年目にして日本シリーズの覇者となり、名将の第一歩を歩み始めた、埼玉西武ライオンズ渡辺久信監督。優勝旗を手にしただけでなく、若い選手を見事に一軍の舞台で開花させた能力も高く評価されている。その伸び伸びとした選手育成法、また選手を信じリスクを厭わない起用法は選手だけでなくフロントからも信頼を得ている。そんな渡辺監督の若手の指導の基本は、“寛容力”すなわち、失敗やミスを怒らないことだという。その真意とは?その背景にはどんな経験が?
一方西武黄金時代を牽引した広岡監督、森監督、ヤクルト移籍後の野村監督と、日本球界歴代の名監督から学んだ、精神論や野球理論、選手操縦法も披露。さらに台湾球界で指導者として培った若手選手の人心掌握術を思い出とともに紹介------とこれまでの長い野球人生、そして今シーズンを振り返りながら、若手選手そしてゆとり世代と呼ばれる若者の指導のいろはを具体的に語り尽くします。


渡辺久信は実は経験豊かな人だなあとこの本を読んで感じました。僕の世代では西武の黄金時代のエースのイメージが強いのですが、ヤクルトをクビになった後、台湾に渡たり、日本に戻ってネット裏から勉強もし、西武の2軍コーチ・監督を4年努めたり、いろいろな経験・苦労をしてきてるんです。ただの元坊ちゃんエースではないんですね。

広岡監督の管理野球で育った選手なのにどちらかというと反面教師というか間逆のチーム管理を行っているのはなんか面白いです。台湾の新興リーグにコーチ兼投手として3年間過ごすのですが、そこでの経験が今の「渡辺野球」に大きく影響しているんですね。さらに興味深いのは、「特製カルテ」や「試合前の個人ミーティング」などに見られる手法は、実は広岡管理野球や野村ID野球と彼自身の経験値をハイブリッドに混合したものだという点です。森や東尾からも多くを学んでいますし。渡辺は高校3年の夏、県予選決勝戦でサヨナラの押し出し四球を与えて甲子園出場を逃しているんです。取り返しのつかないエラーです。そういった自身の経験は失敗をした選手の起用法などにも表れていると思います。
言葉の通じない台湾での経験はコミュニケーションの大切さ、重要さを感じさせ、また発展途上で若い選手の多い台湾リーグで、選手の教育方法や選手の成長には成功体験が何より大切ということを学んだのです。日本球界で数々の栄光や頂点を極めた男が台湾に渡ったという事もすごいことなんですよ、きっと。普通プライドが邪魔してできないことだと思いますもん。本人もこの本で語っているように指導者としての胆をこの台湾という土地で培ったのですね。ファンサービスもしっかり考えていて、観ている人がまた球場に足を運びたくなる試合とはどんなか?など、プロは勝てばそれでよいという某監督とは一線を画しているのも好感が持てます。ファンと監督の距離感、選手と監督の距離感、選手操縦術などは、これからの新たな監督像になるような気がしますね。

“心の肉離れ”を起こした選手は、遠くから見ていてもすぐにわかります。一人ぽつんと練習の輪から離れている。自分から輪の中に入っていかない。こういう選手は早急に手を打たなければなりません。

若い選手に対しては「僕ならばこう考える、こう動く」ではなく、相手の選手の立場に立って、その選手に理解できるようなやり方、言い方を工夫して教えていく。「何でわからないんだ」ではなく「どこがわからないのか」を考える。そうやって目線を落として、丁寧に教えることを学べたのが、台湾での大きな収穫です。

「常識は本来は自由であるはずの決断の幅を狭める」「固定観念は飛躍的成長の敵だ」「良いと思ったらまずやってみろ。ダメならばすぐに変えればいい」

選手がいいプレーをしたときの指導者は、何も迷うことはありません。素直な気持ちで褒めればいいのです。逆に選手がミスをしたときの指導者の対応こそ、気をつけなければなりません。

しかし、僕はあの1球とその後の体験から、今、若手の選手が悪い結果を出したときも、「なぜ、あそこでこうしないのか」と、結果だけを見て話すことは絶対にしないという考えを持つに至りました。あの日、僕は指導者としての「言葉の重要性」を、期せずして学ぶ経験をしたといえるかもしれません。