Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[伊岡瞬] いつか、虹の向こうへ


いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

尾木遼平、46歳、元刑事。ある事件がきっかけで職も妻も失ってしまった彼は、売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんな彼のところに、家出中の少女が新たな居候として転がり込んできた。彼女は、皆を和ます陽気さと厄介ごとを併せて持ち込んでくれたのだった…。優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作。


よくできたハードボイルド小説。元刑事の家になぜ居候が3人もいて、さらに家出少女が転がり込んでくるところから始まる。家出少女が巻き込まれたある殺人事件の真犯人探しが物語の中心として進んでいくのだが、平行して元刑事と居候3人の過去が明らかになっていく展開が面白い。作中寓話の「虹の種」の話はとくに泣けた。

実は虹の種の材料は、人の悲しみでできていた。だから話の中身が悲しいほど大きな虹ができる。男は、その悲しみの材料の中から、二割をもらってためておく。やがてそれをひとつにまとめて大きな大きな虹をつくり、お城でお祝いごとのあるときに売って金を稼ぐのが商売だった。そして残りの八割を虹の種に変えて、話をしてくれた人に返す。
男は一週間ほど滞在した。みんなに次々に悲しい話をしては、自分の土地に虹をつくってみた。
仲の良さそうな新婚夫婦の家から大きな虹が立ち上がったり、いつも泣いて愚痴をこぼしている老婆が、にんじんくらいしかない虹しかつくれなかったり、いろいろだった。
ある日、ひとりの少女が虹売りの幌馬車を訪れた。『わたしにも虹の種をください』両親を亡くして、親戚の家で育てられている少女だった。彼女はとても朗らかで、誰にも親切にして、皆から好かれていた。育てられている家の主人は町で大きな店を経営している金持ちで、やさしくていい人という評判だった。少女はとても恵まれて幸せそうに思われていた。
だから、少女が虹の種をもらいに来たとき、みんなこう思った。『今夜は雨だから、明日はきっと虹が見られる。あの子の腕くらいしかないかわいらしい虹がな』
次の朝、窓を開けた町の人々はとても驚いた。今まで見たこともないほど巨大な虹が町の空にかかっていたのだった。そしてその虹は、なんとあの少女の住む家の庭から立っていた。人々はその意味を悟った。