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[吉田融正] ハイブリッドセールス戦略


ハイブリッドセールス戦略―法人営業部隊の刷新

ハイブリッドセールス戦略―法人営業部隊の刷新

製造、流通、バックオフィスの業務改革の流れに唯一、取り残される法人営業。「気合、根性、経験」の旧弊な3K属人手法では早晩、現場は崩壊する。


一人の営業マンが「リード発掘」「関係構築」「商談醸成」「クローズ」という営業プロセスをすべて行うのではなく、複数の営業マンによる分業にしたほうが良いという提案。一理あると思うが、人は必ずしも合理的に動かない。そこには機械と違って感情がある生き物である営業マンが、どのように捉えるか。特定の産業に特化した企業の場合は顧客担当者と営業マンとの間に個人的な貸し借りなどもあったりして顧客が望まない場合もある。コンシューマー商品などの営業には非常に有効と思う。

これは歴史的に営業現場が常に内包してきた課題なのだが、世の中の成長が止まり、会社の成長が止まってはじめて、「やっぱり新規の発掘をしなきゃダメだよな」と気付いた次第である。新規開拓に注力しようと号令をかけ、今年こそやるぞと意気込んで、配置転換で元気な営業マンを連れてくるなど、人や組織も変えてアプローチを始める。電話をかけたり、セミナーを開催したり、飛び込み営業をしたりする。しかし、こうした活動はなかなかすぐには結果につながらないので、そうこうしているうちに足元の売り上げ目標の達成が危うくなると、「こんなのワリに合わない!」となる。「じゃあちょっと新規は来年に回して、今期は既存で数字をあげるしかないな」となり、結局、従来の既存顧客頼みの数字づくりになってしまう。

したがって、たとえば営業プロセスに「リード発掘」「関係構築」「商談醸成」「クローズ」という工程があったとすれば、「リード発掘」「関係構築」は将来の売り上げのためのプロセス(=長期)、「商談醸成」「クローズ」は直近の売り上げのためのプロセス(=短期)ということができる。

オールラウンダーであることを求められた時代には、8割の売れない営業に分類されていた者も、アフターフォローなど特定のプロセスに専念させれば能力を発揮する可能性が十分にある。売れる営業は負担を軽減してますます売れる営業に、売れない営業は別のプロセスに振り向けてできる営業に育てていくことが必要だ。過去、属人的な営業手法が温存され、分業化が進まなかった理由として「窓口はひとつでなければならない」とする考え方もあっただろう。しかし、それは本当だろうか。顧客としてもいつ辞めるともわからない営業、日中、外出や移動が多い営業にすべてを委ねるのではなく、会社として対応してもらえるほうが安心だろうし、窓口が複数になることは盤石の体制で大切にされていると感じるのではないだろうか。

そもそもCRM(Customer Relationship Management)とは、米国からやってきた経営手法である。それ以前の営業形態は米国も日本と同じで、非定型業務の固まりであった。コンピュータは定型業務を行うには非常に効率的だが、非定型業務を行うには不都合である。つまり属人的な度胸に任せる業務にコンピュータはフィットしなかったため、営業のシステム化だけが米国でも立ち遅れていたのだ。

たとえば、米国は基本的に分業の意識が強いため、CRMの必要性を理解するのも早かった。アメリカンフットボールでもバレーボールでも、米国生まれのスポーツは分業型が多い。攻撃のみの選手、守備のみの選手が活躍する場がある。分業の文化がそもそも根付いているのだ。
日本は営業マンがすべて抱えてなんでも自分でやってしまおうとする“自分だけが知っている”ことに価値が置かれ、それが自身の存在価値にもなっているという現実がある。

米国ではまったく逆で、テレセールスにこそ有能な人材を配置する。テレセールスで良質な案件が多数発掘できれば、あとは商品力さえあれば、「できない営業」でも売れると考えているのだ。ところが日本では、「テレセールスをがんばってやったら訪問営業にいかせてもらえる」といった具合に、テレセールスは一段下に見られている。