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[伊坂幸太郎] バイバイ、ブラックバード


バイバイ、ブラックバード

バイバイ、ブラックバード

太宰治の未完の絶筆「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語。1話が50人だけのために書かれた「ゆうびん小説」が、いまあなたのもとに。


ふくれあがった借金が返せずに繭美に<あのバス>に乗せられる星野一彦。<あのバス>にの乗せられると二度とかえってこられないという。<あのバス>に乗る前に5人の彼女(=5股)のもとに別れを告げに行く星野。それら彼女との出会うシーンが面白いが奇想天外な展開があるわけでもないのに物語に深みがあるのは著者の人物描写の旨さと巧みな感情表現か。すごいぞ伊坂幸太郎

「それはあれか、おまえの恋人が、いなくなったおまえをずっと待っていたら可哀想、ってことか。おまえは馬鹿か。いや、馬鹿だから、<あのバス>で連れて行かれるんだけどな。おまえのことなんか待ってねえよ、誰も」

「大人にはサンタクロースが来ないなんて、誰が決めたんだよ」「いいんだ」僕はさらに頭を下げた。「世の中にはあまりいいことがなくて、それが普通で、だからあんまり人生に期待していない、って人を、少しでもはっとさせたいじゃないか。そう思わないか?」

「その、括弧書きに、『汗』と書く表現、かっこあせ、が僕の発明なんだ。著作権というのかな。その収入で生活できている。まともに働いたことがないから、それだけに、一般大衆の生活に興味があってね。だから、時々、こうして背広というのを着てみるんだ。一種のコスプレだよ」

僕はあと少しすれば、<あのバス>に乗せられる。お金のトラブルがそもそもの原因ではあるが、それ以上に、知らない間に僕がどこかの恐ろしい人物の機嫌を損ねていたらしい。そこが地面だと思い、寝そべったら、虎の尾があった、という具合だった。

「でもわたし、意外にそういうのには慣れているのかも。いくら女優と言っても、大事な役が全部わたしに回ってくるわけではないし。常に、ほかのたくさんの女優の中の一人、候補の一人みたいなもんなんだよね。いい役が来て、喜んでいたら、実はすでに断った女優が二人いた、とかそんなのは日常茶飯事だし。だから、いつも何股もかけられているようなものなの」

「いいか、人間が最後の最後に見捨てられないためにはな、『自分は必要な人間です』『役に立てます』と主張するしかねえんだ」