Yasublog

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[伊坂幸太郎] ゴールデンスランバー

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた―。精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界―、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。


2008年本屋大賞だけあって面白かったです。内容は全く分からず帯買いしたんですがこんな大掛かりなストーリーとは予想外でした。主人公を含め大学時代の仲間の話を切り取れば青春小説であるし、首相暗殺事件の背景に動く影などは大きな陰謀のサスペンス、犯人に仕立てられた主人公を守る親父の姿には感涙ものやし、ある連続殺人事件がきっかけで街中に設置された監視カメラ(セキュリティポッド)などはいずれ到来するかも知れない一億総監視社会への警鐘とも受け取れます。大きな国家権力からある意思を持って標的にされた場合、個人はその力ではひれ伏すしかなく、逃げるしかない、逃げるべきたと。

「逃げろよ。無様な姿を晒してもいいから、とにかく逃げて、生きろ。人間生きてなんぼだ」

「人間の最大の武器はなんだか知っているか」「さあ」「習慣と信頼だ」

その通りだなぁと、樋口晴子は思った。学生時代ののんびりとした、無為で無益な生活からあっという間に社会人となり、背広を着たり、制服を着たり、お互いに連絡も取らなくなったが、それでもそれぞれが自分の生活をし、生きている。成長したわけでもないが、少しずつ何かが変化している。「青柳君の人生なんて、予想外すぎる」


首相暗殺の事件を伝えるTV報道では、主人公は完全に犯人扱いで進んでいきます。そのTV画面が伝えるものと、実際の主人公の周りで進んでいく真実との対比も面白いというか、恐ろしいというか。普段TV画面から映像や音声で伝えられるものはいったいどれだけ真実なのか、それらはあくまで編集者というフィルターを通った情報であると考えないといけのでしょう。