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[伊坂幸太郎] 残り全部バケーション


残り全部バケーション

残り全部バケーション

人生の<小さな奇跡>の物語
夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。


各所に散りばめられた伏線とその回収、短編の振りした長編、巧みな会話などなど、久々に“らしさ”満載の小説。後半は「ゴールデンスランバー」を彷彿とさせる疾走感がいい。溝口と岡田はいわゆる裏稼業(当たり屋)なのだが、伊坂さんが書くと悪人ではなくむしろ善人に思えてくるから不思議だ。


「でもよ、仕事の価値と報酬はあんまり一致しねえから、気にしないほうがいいぜ」「そうなんですか?」「儲けてる奴ほど、ろくなことしてねえよ。ふんぞり返ってパソコンに向かって、ぴこぴこボタンを押してたり、人をあごで使ったりな。それよか、身体使って、荷物はこんだり、物作ってる人間のほうがよっぽど偉いってのにな」

「過去のことばっかり見てると、意味ないですよ。車だって、ずっとバックミラー見てたら、危ないじゃないですか。事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するくらいがちょうどいいですよ」

「レバーをドライブに入れておけば勝手に前に進む、って」

「まあ、理論上だけのことみたいですけどね。世の中のことは何でも、理論上はうまく行くんですよ」「理論を邪魔するのは何だろうね」「感情じゃないかな」岡田は即答する。

「人間、『さもなくば』なんて日本語、使う時が来たら、おしまいだよ。人生のうちで、そうそうないぜ、そんな場面」