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[小杉健治] 父からの手紙


父からの手紙 (光文社文庫)

父からの手紙 (光文社文庫)

家族を捨て、阿久津伸吉は失踪した。しかし、残された子供、麻美子と伸吾の元には、誕生日ごとに父からの手紙が届いた。十年が経ち、結婚を控えた麻美子を不幸が襲う。婚約者が死体で発見され、弟が容疑者として逮捕されたのだ。姉弟の直面した危機に、隠された父の驚くべき真実が明かされてゆく。完璧なミステリー仕立ての中に、人と人との強い絆を描く感動作。

ミステリー小説であり親子の絆の物語であり完成度の高い小説でした。父親がある日家を出て残された家族、父親から誕生日に毎年届く手紙、その娘の婚約者が殺害された・・・。殺人を犯し10年の刑期を終え出所した男が何故過ちを犯してしまったのか、当時の自分をなぞっていく・・・。まったく別のストーリーが交互に展開されていくのですが、後半に入り2つの物語が交差し、繋がっていく展開に鳥肌が立ちました。

阿久津伸吉も麻美子も大きな過ちを犯している。その過ちとは自分を犠牲にして大切な者を助けようとしたことだ。確かにその気持ちは尊い。だが、それは間違っている、と圭一は今になって思うのだ。

物語の最後にこう振り返りがあります。自分を犠牲にして大切な人を守る、それはダメだという。ただ追い詰められた人間はそんな単純な方程式を解けない。人間、八方塞がりの逆境において、命を掛けて闘うべきか、命と引き換えに逆境をチャラにしてしまうのか。筆者はやはり闘うべきだと、格好わるく、醜態をさらけ出してでも、闘うべきだと語っています。