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[伊坂幸太郎] ラッシュライフ


ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。


伊坂幸太郎デビュー2作目。別々の物語が進んでいくが、全ての物語に駅をうろつく野良犬が登場して同じ土地で起こっていることを想像させる。次第に物語自身がクロスしていき見事に繋がっていく。『チルドレン』も同じ手法だったか。『陽気なギャングが地球を回す』、『重力ピエロ』、『チルドレン』に登場する人物やシーンが出たりと遊び心が所々に。

「『つなぐ』という絵がとても良かった」最後に喋った時にも彼は、志奈子の新作を誉めた。絵に込めた思いを汲んでくれ、「あれはリレーを意味しているんだね。人生はきっと誰かにバトンを渡すためにあるんだ。今日の私の一日が、別の人の次の一日に繋がる」とも言った。

「優しいって字はさ、人偏に『憂い』って書くだろう。あれは『人の憂いが分かる』って意味なんだよ。きっと。それが優しいってことなんだ。ようするに」

勢いでそう言ってしまって、後悔をする。サラリーマンの時からそうだった。後先を考えずに喋りはじめ、そのうち説得力のある言葉が出てくるのではないかと怯えながら話しつづけるのだが、気の利いたものなど何ひとつ出てこなくて、結局のところ周りから馬鹿にされる。いつもそうだった。

「たぶん比喩だろうね。その喋るカカシはすべてを見通して、いつも皆を見守っている、と彼は言うんだ。で、私は納得したんだよ。喋るカカシではくても、何か安心できる存在が自分を見ていてくれるのなら、おそらくこれほどまでに不安になることはないんじゃないかとね。『未来は神様のレシピで決まる』と彼はよく言うんだ。たぶん彼の言う『神様』は普遍的な何かを指すんだろうな」

私憤でけっこう、私怨でけっこうだ。公的な理由で行われる戦争や内紛に比べればよほど健全ではないか、とさえ感じた。蟻や蜂は自分たちの巣や集団の維持のためには闘うが、自分自身の恨みのために相手を倒すことはない。個人的な理由による復讐は、よほど人間らしいではないか、と豊田は思った。人間がそんなに偉いのか。ヒューマニズムという言葉が一番嫌いだ、と老犬は言いたげだった。

「Lushは酔っ払いという意味で、飲んだくれのやけっぱち人生ということらしい。おまえに必要なのはむしろ、そういった開き直った生き方かもしれないな」

「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まあ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」

分かり合おうとするから、辛いのかもしれない。相容れないもの同士なのだ。それを前提にすれば、気は楽だ。

「昨日は私たちが主役で、今日は私の妻が主役。その次は別の人間が主役。そんなふうに繋がっていけば面白いと思わないか。リレーのように続いていけばいいと思わないか?人生は一瞬だが、永遠に続く」