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[万城目学] 鴨川ホルモー


鴨川ホルモー (角川文庫)

鴨川ホルモー (角川文庫)

このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり。


この本を分類するとしたら、ファンタジー小説なのか恋愛小説なのかSF小説なのかコメディーなのか、いったい全体分かったものではない。同じく京都を舞台にした「夜は短し歩けよ乙女」をさらにハチャメチャにした感じ。物語後半の展開にはウルっとする所もあるので大学青春恋愛小説がいちばんしっくりくるかな。

このことに思いを巡らせるとき、俺はどうしても人知を超えたものの存在をちらほら思い浮かべずにはいられない。何もそんなおおげさな話じゃない。たとえば、軒先に吊された、てるてる坊主を見つけて、全国に八百万おわすとされるこの国の神の一人くらいが、少しだけ明日の天気をいじったおうかな、と思い立つ――そんな類の話を、だ。

―ダメだ。鼻はダメだ! 善とコモンセンスに支えられた、“白い俺”が必死で叫んでいた。

鬼語教習の根本とは口伝である。上回生の口振りに合わせ、発声を繰り返す。できるまで、繰り返す。若いうちに経験する苦労で、無駄なものは何もないと言うが、鬼、式神とのコミュニケーションを目的とした鬼語習得に、明日はあるのか――とは、俺でなくとも、誰しもが日に十度くらいは浮かべた疑問だっただろう。

「なるほど。手段と目的を同時に信じることはできないということか。無理が通れば道理が引っこむ。実に悩ましい限りだ」

俺の胸にはぽっかりと穴が空き、そこから後悔の念が苦渋に濡れて溢れだす。岸辺に打ち上げられた、航海が縷々綴られた貝殻を拾い上げ、俺は「NO PAIN NO GAINだった」と短くつぶやき、再び後悔の順列組合せを始める。

ああ、俺はいつだってこれだ。頭のなかばかり活動的で、さっぱり実行が伴わない。俺に必要なのはまさに知行合一の精神、いや「俺に必要なのはまさに知行合一の精神」などとほさく前にさっさと一歩足を踏み出す、さっさと踏み出せ、それでもって悶死してしまえ、さあさあさあさあさあ――。

色即是空 空即是色  胡座をかいて、壁に貼りつけられた墨書を俺は見上げていた。