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[佐藤多佳子] しゃべれどもしゃべれども

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべりのプロだろ、教えてよ―あがり症が災いして仕事も覚束なくなった従弟の良や、気まぐれで口下手なために失恋ばかりしている美女の五月から頼られて、話し方教室を開くハメになった若い落語家の三つ葉。教室には苛めにあってる小学生や赤面症の野球解説者まで通ってきて…。嘘がつけない人たちの胸キュン恋愛小説。

浅草を舞台に「言葉」に対してコンプレックスを持った人たちが若手の噺家と出合って自分の中にある殻を破るきっかけを模索しながら成長していく物語。最初は低いトーンで淡々と展開していきますが、クライマックスにかけてどんどんのめり込んでいきます。

「自分が大事だと思っているものから逃げると、絶対に後悔する」

そうは言いつつ、主人公の三つ葉が生まれて初めて仕事と恋につまづいて根拠のない自信が揺らいだときに考える下りが印象的でした。

自信て一体何だろうな。
自分の能力が評価される。自分の人柄が愛される。自分の立場が誇れる。―そういうことだが、それより、何より、肝心なのは、自分で自分を“良し”と納得することかもしれない。“良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、“良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。だが、そんなに適量に配合された人間がいるわけがなく、たいていはうぬぼれたり、いじけたり、ぎくしゃくとみっともなく日々を生きている。