Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[伊坂幸太郎] AX アックス

AX アックス

AX アックス

最強の殺し屋は―恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。


陸王と一緒に買った伊坂幸太郎の新刊。殺し屋シリーズの最新作だが、中身は家族の物語。必殺仕事人の中村主水よろしく家の顔(恐妻家)と外の顔(殺し屋)を使い分けた主人公だが、家族小説の重心がきいてて結末はとても物悲しい。家族の会話が平凡でしかしかけがえのない日常であることを教えてくれる。『アンフェア』を嫌う兜の最期はらしいといえばらしい。ゴールデンスランバーみたく映画化を期待してしまうが、マンション管理人役には柄本明と自動的に映像が頭に浮かんだ。妻との出会いを回想したラストシーンも良かった。


フェアであること。それは兜が、息子に対して言う台詞でもあった。正しいことをやれ、であるとか、努力を怠るな、であるとか、失敗を恐れるな、であるとか、そういった立派なことを要求する気にはなれない。唯一、兜が伝えられるのは、「できるだけフェアでいろ」という、そのことだけだった。誰かを非難する時にもら誰かを擁護する時にも、フェアでありたい、と思いなさい、と。P39

「感情って相殺されないんですよね?」とも松田は言った。「どういう意味ですか?」「いいこともあるから、不満を帳消しにできるかと言ったら、そうじゃなくて。プラスマイナスで計算はできないというか」P104

「店の外だと、万引きになっちゃいますから」P140

「会話なんて内容は何でもいいですから。挨拶をして、何か言葉を交わしていること自体が大事なわけで。宗教や主義は人それぞれですし、スポーツにしても人によっては宗教みたいなものですからね。やっぱり、ぎすぎすする可能性はあるじゃないですか。その点、天気の話は比較的、安全です」P141

何が大変なのかは関係ない。世の中の人間はどのような者でも大変なのだから、どのやうな状況であろうとそれを労っておけば問題がない。兜はそのことを、妻との生活から学んだ。一緒に暮らし始め、とりわけ克己が生まれて以降、妻が抱える苛立ちや不満の大半は、「自分の大変さをあなたは正しく理解していない」ということに還元できる。と兜は分析していた。P143

「ぱっとする仕事って何ですか。暗いというのは、単に、静かに日々を楽しむことができる、ということですよ」明るい性格です、と自称する人間がえてして、他者を巻き込まなくては人生を楽しめないのを兜は知っている。P144

兜は頭をフル回転させ、直近の数時間で妻と交わした会話や妻の前での自分の言動を振り返る。緊急会議が頭の中で開かれる。何か失策があったかどうか。P146

一方が、自尊心を削られても抵抗できないほど、怯えているにもかかわらず、もう一方が、自分たちは安全地帯にいる、と平然としている。珍しい光景ではない。世の仕組みら社会を構築する土台ともいえるかもしれないが、兜は好きではなかった。フェアさに欠ける。P166

フローチャート図が書かれたページもあり、自分の言動により母の態度がどう変わっていくのかが細かく記されている。P220

そして現れたのが、目の前の、雑誌のモデルを二段階ほど庶民的に下げたような外見の、爽やかな若者だ。P234

「隠れ家?」「男の人は一人になりたい時がある、っていうでしょ」「たぶん、一人になりたい男が言っただけだと思うけど」P235

私はその時、これはろくなことにならない、と察した。ただ、私は、妻が、克己に昔から言っていた台詞を思い出す。「やれるだけのことはやりなさい」それで駄目ならしょうがないのだから。P250

生きていく上で、転ぶことが必ずあるはずだから、むしろ起き方に慣れておいたほうがいいのは分かる。P267

「汚い仕事をずっとやってきたので」とぽつりと言った。「はい?」「何かを綺麗にする仕事をしたかったんです」「どういうことですか」「だからクリーニングのお店を始めたんです。そして、どうしても、君のことが気になってしまって、近くに店を出すことになったんですが」P299


伊坂幸太郎最新刊『AX』刊行記念インタビュー | カドブン

[池井戸潤] 陸王

陸王

陸王

勝利を、信じろ。足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。このシューズは、私たちの魂そのものだ!埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金操りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。これまで培った足袋製造の技術を生かして、「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか?世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足―。従業員20名の地方零細企業が、伝統と情熱、そして仲間との強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!


池井戸作品の「現代版水戸黄門」といえる半沢直樹シリーズ下町ロケットなど大好きな小説が多いですが。この陸王も業界大手のシーズメーカー、アトランティス社に挑む弱小老舗メーカーのビジネスドラマ。最後に悪い奴らが返り討ちにあうのはスカッとして気持ちいいです。現実と小説は違うにしろ、常に問題意識をもっていると目の前に現れた事象がチャンスと映るか、または映らないかの差につながるような気がします。社会が変化するなかで「斜陽産業」と呼ばれてしまうのは致し方ないですが、会社を存続させるには常に小さな脱皮を繰り返していかないと、大きな波に飲まれてしまいかねない。池井戸作品は中小零細経営者の背中を押す応援歌でもある。

こういうものは元来、「やる」と決めたら、ある程度の推進力をもって進めないと、アイデアだけで終わってしまうものなのだろう。P43

「やはり、一番大きかったのは、実績がないという点がですかね。ランニングの怪我を未然に防ぐ構造というお話は魅力的でしたが、このシューズで本当に怪我が減ったという科学的な実証はこれかはですよね。当校が実験台にされるのではないかという意見も出ました」P99

まさに、一敗地に塗れる、だ。P100

「結局、ソールの開発費が高いことがランニングシューズ業界への参入障壁なんでしょう」P130

決して路頭に迷うことのない安全な場所にいる者に、今日、そして明日、そして明後日と、一日一日を必死で生きている者の心細さはわからない。P156

人が必死で生きようとするのを否定できないのと同じように、会社の経営者がなんとか生き残ろうと努力する姿もまた、決して否定できないと思う。たとえそこにはったりや嘘が混じっていたとしても、人生を賭している人間こ姿には、どこか尊さがあるのではないか。P156

「企業規模で勝とうといっているんじゃありません。商品コンセプトと品質で勝とうといっているんです」P214

「気づかないほど当たり前のものの中に、本当に大切なものがあるのかも知れません。人の絆もそうなんじゃないでしょうか」P395

「その全てに責任を取らなきゃならない。いいときも、悪いときも、それをまともに受け止めるしかない。厳しいようだが、そういうことだぜ、会社を経営するってことは」P480

「こんなクソ雑誌に抗議する暇があったら、走ってこい、茂木。お前が納得できる状況は、お前の力で引き寄せるしかない。オレも、誰も助けられない。お前しかいないんだ」P482

「いま、新規事業は存廃の危機に瀕していますが、万事順調に成長する事業なんかないですよ。これを乗り切ったとしても、また同じようにギリギリの決断を迫られるような状況がいつか訪れるでしょう。結局、会社経営なんてその繰り返しなんです。どこまで行っても、いつまで経っても、終わりなんかない」P487

「いまランニングシューズの業界へ進出しようとしていますが、だからといって足袋作りを忘れることはありません。そこにこそ、こはぜ屋のアイデンティティがあるわけですから。百年という時間に値段をつけることはできません。ですが、値段をつけられないものにも価値はあるんです。利益は小さくても、ウチはそうやってこの世間の片隅に、狭いながらも生きていけるだけの版図(はんと)を得てきました。それに価値はないんでしょうか」P536

収益競争から離れた場所にいるからこそ、守られてきたものもあるんです。P537

ビジネスとは本来、釣り合っているものです。P541

だけど、いまのこはぜ屋さんは、いってみれば二年前のオレと同じなんですよ。ピンチで困り果て、必死で這い上がろうともがき苦しんでいる。P564

その中にいて、宮沢は悟った。このゴールが、新たなスタート地点になることを。歓声の舞う熱狂のロードレースへ、経営という名の終わりなき競争へ、宮沢の挑戦がいま再び始まったのだ。P579

最近読んだ本

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)

最後の一行にひっくり返った。主人公の趣味であり本作品を貫く「コーヒー」が…だったとは。途中で高校時代の卒業アルバムに彼女の顔があったときは鳥肌ものだったが、最後の終わり方がちょっと(笑)。広沢と同じように読者を崖に真っ逆さまに突き落とすようなオチ。ラスト1行のお題から始まった小説なので仕方ないにしろ。学生時代の友人関係を細かく描写したあたりはさすがだなと思った。作者初めての男性主人公の小説でもあったらしい。



虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)

犯罪者の量刑について考えさせられる小説。重たい十字架を背負って生きている人もいれば、刑務所でロクに反省もせず出所後殺人を犯す人もいる。身近な人が仮出所した犯人に殺されたら死刑にしなかった裁判所や仮出所を認めた刑務所を恨むのだろうか。犯罪被害者の側からすると死刑反対論を軽々しく声に出せないなと思った。



火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

前半は文章が冗長に感じてページが進まず辛かった。後半にかけてはだいぶ読みやすく感じたのは、書きながら洗練されたのかな。



とりつくしま (ちくま文庫)

とりつくしま (ちくま文庫)

短編小説で読みやすい。死んだ人がこの世に戻ってきて会いたい人の近くのモノになるというストーリー。詩的で心温まる作品でした。



三度目の殺人【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

三度目の殺人【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

映画を観ようかなと何となく思ってたら文庫本を見つけたので手にとってみた。重盛の頭のなかだけで進んで行く後半。真実がどこにあるのかヤキモキする終り方であった。



豆の上で眠る (新潮文庫)

豆の上で眠る (新潮文庫)

誘拐された姉とその妹の小学生低学年の頃を回想するシーンで展開するミステリー。2年後に戻ってきた姉は以前の姉とは違う。その謎は…?湊かなえ作品なのでもっと衝撃的な種明かしを期待したけど、意外にマジメな?結論でした。「そして父になる」オマージュ作品かも。



ホワイトラビット

ホワイトラビット

後半の怒涛の展開はさすが伊坂ワールドやね。犯人が人質を取って立て籠もる籠城事件がこうも複雑に展開できるか?っていうくらい二点三点していく様。犯人、人質、夏ノ目刑事、いろいろな登場人物の人となりや背景がうまく物語を引き立てていて、良かった。



満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

単行本のときから気になってたけど文庫を待って購入。この作家さんは初めてかも。人間って怖いなと感じミステリー短編集。若い警官が殉職する夜警、別れた恋人を探しに秘湯温泉宿に行く作品死人宿、母親に復讐する娘、コレラにやられるやつ、などなどどれも怖かった。

最近読んだ本

またひさしぶりの更新です。ここ半年くらいのリストです。

(4月4日京セラドームの阪神ヤクルト戦を観てきました。そう、バレンティンと矢野コーチが退場になった試合です。いろいろ伏線のある両チームですが、藤浪君はノーコン病を克服して大エースの道に舞い戻ってもらいたいと思いますよ。『頭で投げるな、ハートで投げろ』)


影踏み (祥伝社文庫)

影踏み (祥伝社文庫)

ハードボイルドな短編小説。裏稼業が主人公という点で伊坂幸太郎の陽気なギャングシリーズと似てる。消せない過去と作る未来。真壁は足を洗って久子と一緒になったのかな。ミステリーとしても秀逸な作品だと思う。



母性 (新潮文庫)

母性 (新潮文庫)

ただただ疲れた。読み終えて。男が読む小説ではないのかもね。母の心、娘知らず。その逆でもあり。著者はこの作品で何を語ろうとしたのか、中年のおっさん読者には難解でした。



SONYの凋落を描いたのが元讀賣巨人軍代表で渡辺オーナーと喧嘩して辞めたあの清武英利氏とは意外や意外。作家として活動してたのね。愉快なる理想工場にしては巨大になりすぎたのかも。AIBO辞めちゃたときになんか寂しいなぁと思ったりしたけど、でもSONYは大好きです。



贖罪 (双葉文庫)

贖罪 (双葉文庫)

湊さんらしい恐〜いミステリー作品。少女の殺人事件、田舎町独特の人間関係、登場人物の独白形式など、湊作品の真骨頂が盛りだくさんで楽しめました。殺人事件の真相はこーくるか!?と



レイクサイド (文春文庫)

レイクサイド (文春文庫)

4組の夫婦と中学受験を控えた子供が山奥の湖畔の別荘で合宿を行っているなかで殺人事件が…。よくこんなストーリー思い付くよなぁ、と毎回読了後に感じさせる東野圭吾は天才。







死神の浮力 (文春文庫)

死神の浮力 (文春文庫)

2ヶ月くらいかけてやっと読了。まとまった時間に読めないので布団の中で少ない日は1ページ、多い時で十数ページのペース。今までにない作風のように感じた。娘を殺した犯人本城を山野辺夫婦と死神千葉が追う展開。山野辺の心理描写が苦しくなる。「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」「人間はその日を摘むことしかできない」現代では許されない敵討ち。被害者家族の心理描写などは『サブマリン』とも共通するテーマ。


首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

首折り男のための協奏曲 (新潮文庫)

最後の最後で救いがある「月曜から逃げろ」、「合コンの話」か良かった。



コンビニ人間

コンビニ人間

「普通」とは何か?なかなか考えさせられる内容だった。あちら側とこちら側の比較は身につまされる感じがして苦笑いしながら読んだ。ラストの疾走感はコンビニの風景とは思えない意外さがあったが作家の力量なのだろうな。作品にいちいち教訓を求めるのはナンセンスかも知れないがあえて考えるなら適材適所、オンリーワン、違ってていい、多様性…。どれもしっくりこないが「望む望まざるに関わらず普通とは違う生き方はしんどい」ってことかな。

最近読んだ本

ゲーム性の高いミステリーかなと思ったけど、どちらかというと人間ドラマに重きがおかれた小説な気がした。人生最初にしてある意味最大のイベント・戦いである高校入試を多感な受験生、その親、家族、学校の教師。関係者の行動を通して、悪意、正義、守るべきもの、覚悟=責任の取り方など、考えさせられる面白いストーリーになっていた。著者はもともと教師経験があるらしい。試験の採点なんて属人的な要素が入る余地がないと思っていたが、統一ルールがないところもあって物語のようなトラブルが発生する。会社組織における昇進昇給の評価ならなお一層難しいわけだ。合格・不合格、勝ち・負け、とかく二分される。仕方ないにしろ、すべての挑戦者の未来に幸あれ、と思う。いろんな生き方があるよ、と道標を示す教師という仕事は貴いとも思った。


ヒーローインタビュー (ハルキ文庫)

ヒーローインタビュー (ハルキ文庫)

ヒーローのことを語るインタビューでヒーローインタビュー。人にとってのヒーローはなにも大スターだけじゃない。元スカウト、元高校球児、市井の主婦、人それぞれ事情を抱えて人生を送っている。プロ野球との距離感も人それぞれ。後半は切なくて泣けるけど前向きになれる野球小説の新境地。



首都東京の市街地で国籍不明のテロ集団による攻撃が始まるというトンデモストーリー。総理大臣による自衛隊員に向けた防衛出動を命じるときのメッセージには感動した。「自衛官が持つ英雄的な心とは、死を恐れぬ心ではなく、弱きを守るために自らの恐怖を克服できる心だ」、地名や隅田川に架かる橋が実存する名前だけにリアルに迫ってくる。平和が一番



登場人物のキャラ付けの巧さが際立つこの世界観描く西加奈子はすごい!「通天閣」もよかったけど。漁港のある田舎町で訳ありの母子家庭を描いたヒューマン小説。盲腸で入院したシーンは泣いたよ、まったく。中盤から後半にかけて絡まっていた糸がほどけていくように母娘の事実が明らかになっていく感じか心地よい。事情を抱えた家庭に育った子は早く大人になりたいという心理描写、甘酸っぱいものが込み上げてくる。

最近読んだ本

夢幻花 (PHP文芸文庫)

夢幻花 (PHP文芸文庫)

東京五輪時代の大量殺人事件、バンド仲間の自殺、祖父の殺人事件、黄色い花の謎。時代の異なる複数の事件がミステリー感を増していて面白かった。語りたい結論があって、逆算して物語を描くのだろうけど、さすがの東野圭吾。何気に原発問題にも切り込んでいたな。負の遺産も誰かが受け継いで守って(管理して)行かねばならないと。


ザ・町工場

ザ・町工場

大田区の町工場のダイヤ精機創業者急逝で突然主婦から二代目社長となった女将の奮闘記、 第二弾。「この規模の会社の多くの問題はコミュニケーションによって解決する」という言葉は正しく本質だろうなと共感。職人気質の世界の技術伝承の難しさの一方で新世代との融合作業はやりがいは大きい。採用でブレない基準の大切さ、去る者は追わずの覚悟。社長は太陽でなくっちゃ。


十二番目の天使

十二番目の天使

これは泣くでしょ。大人の世界は後ろ向きな話に満ち溢れているけど、ティモシーのように無邪気に前向きなオーラは周囲にそれは大きなプラスの力を放つことになる。明日枯れる花に水をやる精神、一日を精一杯に生きるというありふれた言葉を噛み締める読後感。見返りを求めない愛のなんと尊いことか。ヤクルト真中監督の愛読書でもあるらしい。


サブマリン

サブマリン

陣内、ブレてないね。人が犯す過ちと許し。伊坂さんらしくない?重いテーマを扱った作品。


中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書)

中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書)

逆説的論理、大国は小国には勝てない、線的な予測という誤り、大国は2国間関係を持てない、情報のフィードバックシステムの有無、変数とパラメータ、などなるほどと言うようなキーワードが多くて興味深く読めた。あらゆる危機を想定して、いざという時に即行動できる準備をしておくことの大切さを理解できた。

[伊坂幸太郎] サブマリン

サブマリン

サブマリン

『チルドレン』から、12年。家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちと、罪と罰の物語。


家裁調査官の陣内と後輩の武藤との掛け合いが前作「チルドレン」同様に心地よい。本作の中心を貫いているテーマは「罪」と「許し」。非常に重いテーマは「重力ピエロ」以来かな。

「すまん。名前のことを茶化したのは俺が悪かった」と手を合わせ、隣の少年を拝むようにした。どんなに負け戦でも粘りに粘り、結果として引き際を失うのが常の陣内さんも稀にこうして潔い。

木更津安奈がこれまた捉えどころのない女性で…、何かといえば、「そこまでする必要がありますか?」が口癖の人物であった。世の中の大半のことは、「そこまでする必要がある」とは言い難く、それを言い出すよなら古代エジプトの建築物も科学の進歩も否定されかねない。

ましてや、会ったこともない誰かが、ニュースの情報だけで、少年の気持ちを言い当てることは難度が高い。とはいえ、その気持ちもまた否定することもできない。社会の人の心は、「きっと」と「どうせ」で溢れている。

彼女もこの仕事の経験上、親の不仲や不在、もしくは暴力が、子供に与える影響は確実にあるとわかっているのだろう。立派な親とは、立派な時代が存在しないのと同様に存在しない。

陣内さんは足元に目を落とし、しばらく黙った。「昔から、時間が和らげない悲しみなどない、と言うけどな」時間が薬、とは時折、耳にする言葉だ。「嘘ではない。その時間がどれくらいなのかは人それぞれなんだろうが。反対に、時間でしか解決できないことはたくさんある」そう言う陣内さんは、自身の経験から語るようだった。

誰かの大事なものや大事な人を、馬鹿にして、優位に立とうとする。自尊心や命を削ろうとする。そういう奴と同じになるなよ。そいつが誰かに迷惑をかけてるならまだしも、そうでないなら、そいつの大事なものは馬鹿にするな。

「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。そうだろう?いつもの仕事と一緒だ。俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目なときは駄目だ」

「別に悪いことじゃねえんだよ。身勝手で臆病なのは、動物の正しいあり方だ。それを認めた上で、どうやって、それなりに穏やかな社会を作るかだ。フールプルーフってあるだろ。人が間違えた時に危ないことにならない仕組み」

「自暴自棄になって、こういう事件を起こす奴はどうして、子供だとか弱い奴らを狙うんだ?どうせ人生を捨てるつもりで、暴れるなら、もっと強そうで悪そうな奴をどうにかしようと思わねえのか?これは別に、茶化しているわけじゃねえぞ。本当に気になるんだよ。別に、正義の味方になれ、とは思わねえけど、どうせなら酷い悪人退治に乗り出すほうが、いろいろ逆転できそうじゃねえか」

サッカーで失点に繋がるミスをした選手が、後半に二点取って、挽回することはできる。ただ、おまえの場合はそうじゃない。何をやろうと、挽回はできない。人の命は失ったら、戻らないからだ。奮起して、あとで何点取ろうと戻ってこない。取り返しがつかないことってのもあるわけだ?

まだ子供になのに、と思ってしまった。まだ子供なのに、自分の人生を左右する判断を自ら行わなくてはならないのだ。棚岡佑真に限らない。僕たちが仕事で向き合う少年のほとんどはそうだ。人生経験のそとんどない中で、大事な選択をしなくてはいけない。何を喋り、何を隠し、何を目指し、何を遠ざけるのか。親や弁護士のアドバイスに従うことはできるが、最終的に決めるのは自分だ。酷だ、といつも思う。大人にだって正解の分からない問題に答えなくてはいけない。

棚岡祐真はどうしてこんな目に遭わなくてはいけなかったのか。両親を交通事故で亡くし、友達も事故で失った。そして今度は自分が人を死なせてしまった。無免許なのだから自業自得、といえばそうだが、それにしても、もう少しどうにかならなかったのか。
誰に比べて、というわけではないが、明らかに不公平じゃないか。誰かに物申したい、少なくとも、問い合わせたい気分になる。どうしてこうなっているんですか。どうにかならなかったんですか。クレームではないんです。教えてほしいだけなんですよ。

そのことを理由に僕たちが、あえて重い処分にしようとは思わないが、ただ彼本人が、「自分はちゃんと償ったんだ」という実感を持つことは重要に感じられた。前に進むためにはそのほうが良いこともある。

最近読んだ本

望郷 (文春文庫)

望郷 (文春文庫)

「石の十字架」、「光の航路」か良かった。後書きによると作者の故郷、因島が舞台だそう。因島大橋が所々で登場する。閉じた社会で人間の残酷さが起こすいじめ、一方で救うのもまた人間であったり。どこまでが作者の実体験か分からないけど、まったく実体験じゃなくもないだろうし。



カエルの楽園

カエルの楽園

3分の2読んだあたりで結末は予想できた。この作品書くひとならこっちの展開で終わるだろうなと。あるひとは憲法9条が日本を戦争に巻き込まれなかった最大の立役者という。いや、日米同盟のおかげだと反論するひとがいる。起こったことの理由を述べるのは容易いが、起こらなかったことの理由は所詮いくらでも作れる。問題の難しさがここにある。過去70年が無かったこととしてゼロベースで今後の国のあるべき姿を起していく作業があってもよいかも。



経営者の最大の仕事は後任社長を誰にするか、このことを痛感させられる。またどんな会社にも必要なのは「エース」。この人で負けたらしょうがないといえるエース。好き嫌いで決まるトップ人事、権力闘争、もう悲惨すぎて言葉にできない…。復活を期待してる。



HARD THINGS

HARD THINGS

「答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」会社のトップとしての気構えや、トラブル対応、などなど非常に勉強になる本でした。



境遇 (双葉文庫)

境遇 (双葉文庫)

親が不明な児童養護施設出身の2人の女性が主人公。境遇とは自身が選択した結果ではなく抗うことのできない運命を意味すると思うし、主人公の2人は境遇を乗り越えて幸せを掴んで欲しい。最後のどんでん返しはなくても良かったのかも。筆者にしてはアッサリな感じもした。

最近読んだ本

ホテルローヤル (集英社文庫)

ホテルローヤル (集英社文庫)

北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は“非日常”を求めてその扉を開く―。恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。ささやかな昴揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。第149回直木賞受賞作。

起終点駅に続けて直木賞受賞作を手に取ってみた。同じく釧路を舞台に悲哀に満ちた人間模様を描いている。現在から過去に向かって短編が構成されているのは旨い手法だと思った。ラブホの一生をフラッシュバックして見たように。霧がかかった情景、登場人物の感情の振れ幅が狭い、北国の寒さ、不幸な人間がそれでも一緒懸命生きる姿がそこにあって。断片な感想が思いつくが言葉にうまくまとめられない。もう一度読むと理解が深まると思った。


下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

ロケットから人体へ―佃製作所の新たな挑戦!前作から5年。ふたたび日本に夢と希望と勇気をもたらすエンターテインメント長編!!

いやぁ池井戸さんまたまたやってくれましたね。続編も泣かせてくれます。至るところで大企業の横暴と中小零細企業の悲哀が描かれているけれど「命の尊さを会社の大小で測れますか?」と審査員と対峙する社員が育っていたり、辞めてライバル社に図面を持ち出した者への大人な対応や帝国重工にバーターで出資話を並行で進めるなど会社も佃社長もパワーアップしている感じがしました。なんとかドラマに越されずにすんだけど貴船と椎名の奈落へ真っ逆さまのシーンの演技がどんな感じになるのか楽しみにw

[川村元気] 世界から猫が消えたなら

郵便配達員として働く三十歳の僕。ちょっと映画オタク。猫とふたり暮らし。そんな僕がある日突然、脳腫瘍で余命わずかであることを宣告される。絶望的な気分で家に帰ってくると、自分とまったく同じ姿をした男が待っていた。その男は自分が悪魔だと言い、「この世界から何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得る」という奇妙な取引を持ちかけてきた。僕は生きるために、消すことを決めた。電話、映画、時計…僕の命と引き換えに、世界からモノが消えていく。僕と猫と陽気な悪魔の七日間が始まった。二〇一三年本屋大賞ノミネートの感動作が、待望の文庫化!


タイトルから何となく想像していた内容と違った。ファンタジーなようで違うのは、飼い猫、家族の死を通して家族の再生を描いているという、とてもリアルな物語だと思ったから。「家族って『ある』ものじゃなかった。家族は『する』ものだったんだ」「何かを得るためには、何かを失わなくては」「人生は近くで見ると悲劇だけれど遠くから見れば喜劇だ」「道を知ってることと、実際に歩くことは違う」「大いなる力には大いなる責任が伴う」「私には傑作は残せなかった。だか人を笑わせた。悪くないだろ」名作の引用など、文章が読みやすくて心地いい。