Yasublog

本、土木・橋梁、野球、お笑い、などについて書いてます。

[宮部みゆき] 淋しき狩人

淋しい狩人 (新潮文庫)

淋しい狩人 (新潮文庫)

東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挾まれていた名刺。父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。ブッキッシュな連作短編集。


小さな書店を経営する叔父イワさんと孫の稔が探偵よろしく「本」にまつわる事件を解決する短編集。親子でなく一世代離れた2人というのがいい味出してますね。

稔はまばたきをした。「おじいちゃんも母さんも、僕をあんまり信用してないわけだ」「おまえのことは信用してるよ」と、イワさんは辛抱強く言った。「だがな、おじいちゃんも、おまえの父ちゃんもおっかさんも、いざという時、なにか良くないことがある時には、おじいちゃんたちがおまえに寄せる信頼なんかふっ飛ばされてしまうような勢いで、事が起こるってことを知っている。そういう瞬間風速の前では、家族の信頼なんて脆いもんだ。それくらい、世の中というのは何が起こるかわからないところなんだよ」P178

久永由紀子は、自分と自分が歩いてきた人生にーーまだたった二十五年の道のりだけれどもーーどんな種類の幻想も抱いてはいなかった。彼女は、自分が入れられている金魚鉢のサイズを知っている金魚だった。誰に教えられたのでもない。知っているのだ。P230

差別も偏見もない。だが、孫は可愛い。そして、常識人であるイワさんの心のなかには、十七歳の高校生と二十七歳のクラブのホステスの恋愛を、暖かく見守ってやれるだけのゆとりはない。常識とは、人の心のなかに居座ると、えらく場所をとるものなのだ。P239

年寄が出てくると、なんでも丸くおさめてしまう。それはやはり、良くないのではないか。風邪のひき始めに解熱剤を飲んで封じこめてしまい、あとあとまで全快しないで辛い思いをすることがある。あれと同じだ。出る熱は出してしまったほうがいい。物事というのは何でも、一度は喫水線を超えさせてからでなければ、収拾をつけることができないのだから、P297