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[荻原浩] 愛しの座敷わらし


愛しの座敷わらし

愛しの座敷わらし

生まれてすぐに家族になるわけじゃない。一緒にいるから、家族になるのだ。東京から田舎に引っ越した一家が、座敷わらしとの出会いを機に家族の絆を取り戻してゆく、ささやかな希望と再生の物語。朝日新聞好評連載、待望の単行本化!


久々の萩原浩作品です。最近はミステリーものが続いていたのでハートフルなほんわか家族の物語が心地よかったです。主人公・晃一は食品会社に勤める課長、本社勤めから突然の地方支店転勤となる。妻の史子はダメ夫と姑にうんざりしながら子供の教育には一生懸命、長女の梓美は空気ばかり読んで一歩踏み出せず友達ができない。弟の智也は生まれつき体が弱く史子から過保護扱い受けつつ冷静に家族を見つめている。一見バラバラの家族が東京からド田舎の大きな古い民家に越してから、家族の大切さに気付いてゆく再生物語です。密度も濃すぎて物質的にも豊か過ぎる大都会はそれだけで心の豊かさを奪っていき、緑多い澄んだ空気のど田舎自身には心豊かに人を再生する自然治癒力が備わっているとでも言うように。でもやっぱりこの家族再生物語に欠かせないのが「座敷わらし」。最後の1行、漫才でいうオチにあたるその一言にやられますね。

会社を出たのは予定通り6時前だった。電車で1時間もぼんやり過ごすのはなんだし、たまには本でも読むか、などと考えて、本屋に立ち寄ったのがいけなかった。「管理職の決断力」という本を買うべきかどうか迷ってしばし立ち読みしたおかげで、乗るべき電車の発車ベルを連絡通路で聞き、息も絶え絶えに尾灯を見送った。

確かに見た。こうなったら、みんなの言葉も信じる。でもなぁ。UFOだの、スプーン曲げだの、将来はプロ野球選手だの、子供の頃に信じていた夢をひとつずつ捨てて、それでいまの自分があるのだ。父、晃一が。夫、晃一が。課長、高橋が。残り少ない夢だった、あの家だって、いましがた家族のために手放そうとしていた。世の中の厳しい現実には、身もふたもないほど現実的であらねば立ち向かえない。夢を見続けている人間は、夢を捨てた人間が守っているのだ。


さわやかな物語の中にも作者独特のユーモラスも散りばめられていて期待どおりの内容でした。